「はぁっ……はっ、あー疲れたっ」

俺は拓海を最後にギリギリ追い抜かすと、そのまま砂浜の上に転がった。すぐに拓海も隣に大の字になる。

「……きっつ……はぁっ、はっ……僕……体力、落ちてる……」

「だな……、こんな無駄に走ったのも、俺もっ……久しぶりだし」

「あはっ……だね……」

俺たちは肩で息をしながら、満点の星空の下、呼吸を繰り返す。藍色の夜空には星々が競うように瞬いて月が優しくこちらを照らしている。

夏休み最後の夜だからだろうか。
いつもは学生のグループやカップルがチラホラいるのだが、今夜の海は貸し切りだ。互いの呼吸音と波の音だけが聞こえてくる。

「……綺麗だね」

そう言うと、ようやく呼吸が整ってきた拓海が俺の方に顔を向けた。

「ほんとだな、マジで星ってこんな綺麗だっけ。堕ちてきそう」

星に向かって掌を翳した俺を見ながら、拓海がにんまり笑った。

「なんだよ?」

「葵って、時々ロマンチックなこというよね」

「あー……そう言われたら途端に恥ずいじゃん」

「ははっ、僕はそういう葵も好きだけどね」

葵の無邪気な『好き』という言葉に俺の心臓がどくんと音を立てた。

「ど……どうも」

「あははっ、やけに素直! じゃあ、星より綺麗かわかんないけどやろっか」

拓海がゆっくり起き上がると、リュックから花火を取り出した。

「ねぇ。葵と二人だけの花火って初めてじゃない?」

「確かにな」

俺も起き上がると拓海の前にしゃがみ込んだ。