──迎えた夏休み最終日、俺はラーメン屋の店長に挨拶をし、ぺこりと頭を下げてから従業員出入り口から外へでた。生ぬるい風が身体に纏わりつくように通り過ぎていく。


「……葵」

俺は電信柱の陰から聞こえてきた声にすぐに足を止めた。

「え……?」

その声はよく知っている声で、俺が聴き間違えるはずなんてない。それでもちゃんと姿を見るまでは、俺の身勝手な願望からの幻聴かもしれないと半信半疑だった。

「何その顔。バイトおつかれ」

「えっ……何でそれ」

拓海が電信柱の陰から姿を現すとニヤッと笑ってすぐに俺の隣に並んだ。久しぶりのせいだろうか。すぐ真横に拓海の体温を感じて俺の鼓動がとくんと跳ねた。

「あ、たまたま塾の帰り道に仕事帰りのミキおばさんに会ってさ、葵がバイトしてるって聞いたんだ」

(……ったく、母さんのやつ……ぺらぺらと)

「で? わざわざお迎えに来てくれたとか?」

「うん、葵を驚かせたかったし、ずっと会えてなかったし」

拓海の笑顔に俺の心臓がすこしずつ騒がしくなっていく。

(なんだよこれ……意味わかんねぇ)

単純に嬉しいのとは少しちがう。嬉しいくせになんか落ち着かなくて、会いたかったはずなのに何だか恥ずかしくてこの場から駆け出したくなるような変な感覚だ。

「ね、葵。付き合って」

「え…………」