そうしてあっという間に夏休みがやってきて、あっという間にお盆が過ぎ去った。

俺がこの夏休みを利用して始めたことと言えば勿論、受験勉強ではなく近所のラーメン屋での短期バイトだ。

理由は簡単。拓海の為に俺がしてやれることなんて、このくらいしか思い浮かばなかったから。

「あー、疲れた! ミッション終了!」

俺は自室に戻るなり電気もつけず、シャワーも浴びずにベッドに身体を沈めた。朝イチで出発したのに自宅に戻ればもう十時過ぎだ。

俺はポケットからそれを取り出すと、月明かりにそっと照らす。手のひらに収まるソレは他県の山奥にある菅原道真公ゆかりの由緒正しき神社で手に入れてきたばかりのものだ。

「……菅原道真でも神様でもなんでもいいから……マジで拓海の合格お願いします……」 

俺は銀色の袋に金色の糸で『合格祈願』と刺繍されている御守りをぎゅっと握りしめた。

俺はバイトをしているラーメン屋の店長にバイト代を日払いにしてもらって、今まで稼いだバイト代で往復十三時間かけて拓海の合格祈願のお守りを拝受してきたのだ。

窓の向こう拓海の部屋からは、まだ明かりが漏れている。

(今日もまだ頑張ってんだな……)

俺は拓海とは夏休みに入ってから一度も会っていない。

拓海はあの夜の次の日、おじさんとおばさんに歯学部受験を伝え、本格的に受験勉強を始めた。朝から晩まで塾に通ってるんだろう。夜も俺が寝る頃もまだ部屋の明かりがついていることがほとんどだ。

俺はスマホを取り出すとSNSを確認する。毎年夏休みも野球で忙しかったが、今年の夏は本当にすることがない。誰とも会う予定もやりたいことも見つからない中で俺はついSNSへの閲覧と投稿が増えていた。俺は画面をスクロールしながら、思わず唇を持ち上げた。

「……ふ、勉強しろよ」