「大袈裟だな、俺のおかげっていうよりは拓海の努力だろ。俺はなんもしてないし」

「ううん、葵のおかげだよ……葵がいなかったら僕は野球もしてなかっただろうし、もっとコミュ障になってたかも。僕……いつのまにか葵に結構依存してたんだなって気づいて……」

俺はその言葉がまるで自分の言葉のように感じる。

「だから正直……来年から隣に葵がいないんだって思うと……なんかさ……進路が決めきれなくてさ。ずっと迷ってた。情けないよね」

「そんなことない。だってお前は、もうさ……」

俺はルービックキューブを野球ボールに見立てて天井に向かって放り投げる。そして宙を舞って落下してきたソレを右手で勢いよくキャッチすると、自然にこみあげてきた笑顔を拓海に向けた。

「決まったんだろ? ルービックキューブ完成させて」

俺の言葉に拓海が、へへっと笑った。

「うん……はっきり言って……歯学部は浪人覚悟だし、浪人してもいつ受かるかもわからない。でも明日、父さんにも話そうと思ってる」

俺は拓海の肩にガシッと腕を回した。

「絶対大丈夫! きっと、おじさんも応援してくれると思うしさ、俺も応援する! 拓海のこと信じてるから」

「……葵……ありがとう」

「おう……」

はっと気づけば拓海との顔の距離がやけに近くて俺は顔が熱くなる。

「あれ葵、照れてんだ?」

「あ、改まって言われると……そりゃ照れるだろっ。な、乾杯しよ」

「え?何乾杯?」

「なんでもいいだろ、ほら」

俺がコーラのペットボトルを拓海ペットボトルにペコっと当てると、俺たちは一気にコーラを飲み干した。

なぜだか喉に通過する炭酸がさっきよりもやけに心地よくて、俺たちは何となく気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように顔を見合わせると、暫く笑い合った。