俺と拓海は中学を卒業するとき、野球だけは辞めない、これからもずっと一緒に野球をしようと桜の木の下でグータッチしながら笑い合ったことがある。まだ今よりずっと子供で無知で、もっと楽に息が吸えていた頃だ。

(ほんと……律儀っていうか真面目っていうか……あんな約束……約束じゃねぇよ)

俺は唇を湿らせてから、ゆっくり言葉を吐き出した。

「……あれは中学ん時の卒業のノリっていうか……俺なんか忘れてたし」

俺はなるべく表情も声のトーンも変えず返事をすると拓海から視線をそらした。すると拓海が俺の方を指さした。

「葵の嘘つくときのクセ知ってる?」

「えっ?」

拓海と視線がかち合った俺を見ながら、拓海が歯を見せて笑った。

「葵って話すとき、必ず目をみて話してくれるんだよね」

「お、う」

「でも、嘘つくとき……必ず視線逸らすんだよ、無意識だよね?」

(マジか……)

俺は返す言葉が浮かばなくて、かっと熱くなった頬を隠すように口元を手のひらで覆った。

「葵も約束、ちゃんと覚えててくれたんだね」

「別に……」

言いながら俺はまた拓海から目を逸らしていることに気づいて、慌てて視線を葵に戻す。

「僕さ、野球好きなんだよね。それも葵とする野球がすごく好きだったんだ」

「え?」

「葵はさ、ほんとチーム一人一人のことをよく見てて、誰かの気持ちが落ちてたらさりげなくフォロー入るし、いいプレーしたら誰よりも自分のことのように喜んでさ……野球チームとしては特別強かった訳じゃないけど、絆はどこのチームにも負けてない自信があるし、僕はあのチームの一員だったこと誇りに思っている。葵のお陰で……ずっと人見知りがコンプレックスだった僕は変われたんだ」