俺と姉貴が花火を見るのに特等席だと思っている『とっておきの場所』は、別に俺たち姉弟だけのものというわけでもなく、たどり着いてみれば何組かの見物客が集まっていた。
 そのほとんどが男女のカップルであり、その中にあって東雲の腕を引いている自分の状況が、自分でもどういう心境なのか理解に困る。
 中には姉貴とその彼氏もいたので、絶対に視界に入らないように離れた位置へ移動した。
 東雲は特に何かを言うこともなく、黙って俺についてくる。

「ここに座るか」
「うん」

 腕を放して草むらに腰を下ろした俺の隣に、東雲も素直に座る。
 花火を見るために視線を少し横へ向ければ、東雲の横顔も視界に入る。
俺にとってはいつも以上の特等席に思えた。

(あーあ……俺、ほんとに何考えてんだろ……)

 四年も目を合わせることさえなかった東雲と、久しぶりに話をしたり、笑いあったり――思いがけずそういう時間を過ごせたせいで、どこかおかしくなっているのかもしれない。
 浮足立って、まったく落ち着かない。

「言ったとおり、いい場所だろ?」
「うん、花火がよく見える」

 今更感満載の、四年越しの俺の自慢交じりの問いかけに、東雲はためらいなく率直に答えてくれる。
 まるで間の時間がなかったことになったかのような多幸感に、俺は本当に舞い上がってしまっている。

「一緒に見れてよかった」

 冷静になって考えてみれば、恥ずかしくてとても口に出せそうにない言葉も、東雲と並んで膝を抱えて座り、夜空を見上げた格好のままならば言える。
 隣の東雲が困惑した顔をしていたとしても、視線を下げなければ見えないから。

「……俺も」

 その返事を、飛び上がってしまいそうに嬉しく思っていることも、彼がわざわざ視線を下げて俺を見なければ、気付かれることもない。

 ひと際大きく開いた花火が、パチパチパチと炭酸が弾けるのに似た音を上げて、夜空をいくつも流れ落ちる光の筋を残して消えていくのに、隣でカランカランと涼しげな音が重なった。
 東雲の顔をスルーして手元へ視線を向けると、空になったラムネの瓶を振っており、ビー玉が高い音を奏でている。

「このビー玉……出せるかな?」

 問いかけられたので、視線をゆるゆると上げながら答えた。

「出せるけど……なんで?」
「今日の記念にずっと取っておきたくて」
「――――!」

 どきりと胸が飛び跳ねた瞬間、思わず目にしてしまった東雲の笑顔が、また俺の脳裏を焼く。
 一生忘れられそうにない、鮮やかな花火を背に――