笛と太鼓の祭り囃子が、夜の静寂に賑やかに響き渡り、人々の歓声と笑い声が、喧騒に益々の拍車をかける。
 提灯に加えてそこかしこに灯された松明が、焔を揺らめかせている本殿前の広場は、昼間と見紛うほどに明るい。
 その中を老若男女が連なり、同じ踊りを踊っている光景は、どこか異界めいて畏ろしくもあり、滑稽でもある。

「…………」

 そんなことを、広場とは本殿を挟んだ裏側の半闇の中で考えながら、俺は実は途方に暮れていた。

(どうしよう……)

 背中に河藤の罵声を浴びながら俺の腕を引き、参道の人波から抜け出した東雲は、その後どうするかの算段はなかったようで、神社の裏手の木立に差し掛かると困ったように足を止めた。
 そこからは逆に俺が彼の腕を引いて、車で社殿へ上るための広い道を駆け上がり、この場所まで辿りついた。

 子どもの頃から遊び場として、よくこの神社を訪れていた俺のほうが、本来はこの町の住人ではない東雲より地理に詳しいのは当たり前だ。
 そんなささやかな自慢は、今はどうでもいい。
 とにかくこの気まずい状態を、いったいどうしたらいいのかだ。

 河藤とひとしきり言いあって以来、東雲は口を開かない。
 それどころか俺のほうを見ようともしない。
 黙って俺に手を引かれるまま、ここまでついてきた。

 それ自体は、ここ四年間の俺たちの関係からすればごく当然の態度だが、気になるのは東雲が河藤と罵りあっていた内容だ。

(裏切り者? どういうことだ……? 抜け駆けとも言ってたな……)

 さっぱりわからない。
 本人に尋ねてみようにも、なんと声をかけたらいいのか、きっかけの作り方がわからない。
 困った思いでちらりとその姿を盗み見て、本殿裏の木製の階段にもたれるようにして地面に座り込んでいる東雲が、疲れたように息を吐いていることに気がついた。

 当然だ。
 痩せすぎなほどに細身の東雲は、俺のように動画を流し見しながらの筋トレが趣味だったり、誰とも遭遇しない変な時間のジョギングが好きだったりはしないだろう。

(俺、無駄に体力だけはあるもんな)

 そのことに思い至り、広場の隅に置いてある自販機へ向かった。
 何か飲み物を買ってやろうとポケットの中の小銭を漁ったのに、どれも売り切れで萎える。

(これだから人が多く集まる場所は)

 辟易しながら目を向けた先に、氷で冷やしたラムネを売っている簡易テントがあった。
 駄菓子屋だと百円ちょっとで買えるラムネが、氷でキンキンに冷やされて祭りの場で売られているというだけで、三倍以上の値段に跳ね上がる。
 その理不尽さに、普段ならば絶対に買うことはないが、今はこれもいいかと思った。

(祭り、行ったことないって言ってたもんな……まあ四年も前の話で、その間にはいろんな女とたくさん行ったかもしれないけど)

 そういうふうに東雲のことを考えると、腹の奥でどす黒い感情が渦を巻き始めるので、俺は必死に自分を牽制する。

(やめろ、やめろ、男の僻みは本当に情けないって……)

 女にモテる東雲にやっかみを感じてしまっているのだと、信じて疑っていなかった。