鈴夏は一気にしゃべると、「ふいー、ついに言っちゃったよ……」とつぶやいて再び柵に寄りかかり、両手で顔をおおった。
 鈴夏は手のひらを完全に閉じているわけではなく、指のすき間からときおり片目を出して、ちらりちらりとこちらを見ている。
 僕は何も答えられなかった。
 いや、あまりの嬉しさに、言葉は不要、答えなんて、僕の様子を見ればわかること。そう思った。
 このまま何も言わず、この幸福の瞬間をずっと味わっていたい。けど、それでも口に出して答えなければいけない。
 僕もドギマギしながらその言葉を口にした。
「……ぼくも、鈴夏さんのことが、好きだった。――いや、今も好きだ」
 壊れたロボットのような返答を、彼女はそれでも、わぁっと感極まったように泣いて喜んでくれた。
 僕は、星野鈴夏と交際を始めた。
 帰り道、「えへへ」と言って嬉しそうにしなだれかかってきた彼女の積極性を受け入れた僕は、人目もはばからずに腕を組んで街を歩いた。
 僕たちの交際は、翌日にはもう学年じゅうに広がっていた。当然だ。
 その日から、見るもの全てが未来志向の前向きな希望に満ちあふれた。