「実は、結人くんについてた嘘がある」
柵によりかかって、初夏の日差しで輝く街を見ながら、鈴夏は言った。
城跡でもある歌扇野公園の高台は、せいぜい近くの市街地が見張らせるだけの高さだ。
そんなところに登っただけでも遠景に青銅色の山々が見えて、歌扇野は小さな地方都市なんだということを、僕たちに否応なしに思い起こさせる。
「さっきはよろしくねって言ったけど、『大切な友達』はもう終わりにしたいの」
「えっ」
鈴夏の桜色のくちびるが、終わりという言葉を記したのを、数秒たってようやく理解した。
「ほら、結人くんは男の子だし、やっぱり私も異性の友達って、なんだか照れ臭くて、いろいろ気にしちゃうじゃない?」
なま暖かい風が吹き抜け、街路樹の葉をゆらす。
高台から見える景色。僕の視線は、肩を寄せ合いふざけ合いながら談笑する、高校生たちのグループに注がれた。それぞれ女子四人と男子三人の組み合わせだ。
鈴夏も同じ場所を見ていたのか、興味津々に目で追っていた。
鈴夏は手すりをぎゅっと掴んで僕を見る。
「あの人たち、どんな関係なんだろうね」
「……さぁ」
やがて彼らは交差点に差し掛かり、女の子のうちの一人だけが横断歩道を渡った。
別れた一人は、そのまま街角に消える。
残された人たちは、よりいっそう肩を近づけ合い談笑する。
「僕たちには、関係ないことだよ」
彼らが三組のカップルだろうと、友達同士だろうと、あるいは他の関係性だろうと。
すべては、ガードレールを隔ててすれ違う一人には、関わりのないことだ。
そして僕は、さっきの鈴夏の言葉に答える。交差点までの儚い夢のことを想いながら。
「――おめでとう、『大切な友達』が見つかって」
もちろん、強がりだった。
僕の言葉に、鈴夏は首をひねって目をぱちくりさせる。
「もっと、焦ってくれるかと思ったのに」
僕は彼女の言葉を気にしないようにつとめながら言う。
「その『大切な友達』のこと、もっと詳しく聞きたいな。どんな人なの?」
鈴夏は両手で柵の上に頬杖をつきながら、にこりとして答えた。
「絵が上手いんだ。私とはまた別の絵柄だけど、正直、彼女のほうが才能あると思う」
「へぇ。今気づいたけど、友達になったの二週間前じゃん。きみは相変わらず気が早いね」
「うん。私もシラコー仲間なのがわかったからって、馴れ馴れしくしたかも。
けど、『気にしないよ』って笑って許してくれて。優しくてさ。わたしは妹がいないけど、妹にしたい。って、これじゃ大切な友達じゃなくて妹だよね。
――とにかく、私は大切な友達が見つかった」
言い終えるなり、鈴夏は柵から手を離し、申し訳なさそうに僕を見た。
「結人くん」
そして、
「大切な友達になりたいっていうのは、きみに近づくための口実だった。
けど、結人くんが自分と似てるって気づいてさ――考え方とか、ウソがすごく下手なところとか。だんだん興味を持つようになったのは本当だった。
私から無理やり頼んだっていうのに、鉛筆でスケッチを丁寧に描いてくれて、嬉しかった。
シラコーの話がたくさんできて、楽しかった。
もっと絵が見たいって言ってくれて、嬉しかった。――わたしは、結人くんのことが好きだよ」
「!」
「――だから、これからは、大切な友達じゃなくて、『大切な人』になってほしい」