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星野鈴夏は、シラコーのマスコットのウドゥンという名前の狐のキャラが好き。
三巻の中盤、作中のボランティア部の部室に転がり込んできた人語を喋る狐は、「非常食くらいにはなりそうよ」という主人公の手で「きつねうどん」っぽい名前をつけられた、というなんとも酷な話。
鈴夏との会話で知った情報を、シラコーを読み返して復習する。
今は七巻まで買えた。彼女におすすめされた『白百百高校凸凹カルテット』の漫画は、時間とお金を見繕っては少しずつ読んでいた。
中学二年の五月の終わり、僕は星野鈴夏と市の文化会館を訪れていた。
鈴夏の描いた絵が市の小さな出展で展示されることになったのだ。
会場のコルクボードに貼られた数々の作品。鈴夏はその中の一枚の前で立ち止まった。
その絵は、元々は僕が見たいと言い出したものだった。
「……その、この前のスケッチがすごく上手かったから、鈴夏さんの他の絵も見てみたいって思ったんだ」
鈴夏の八面ダイスに描かれた僕のスケッチ、そのモチーフになった、シラコーの漫画。
僕の顔は作中の主要キャラのひとりに似せて描かれていた。
それ以来、彼女のオリジナルかつ本気の作品も気になっていた。
「結人くんにそう言われるなんて、――なんか照れるよ」
鈴夏はめずらしく、口もとを片手で覆って恥ずかしそうにそっぽを向いた。自信はないが、少しだけ髪も切ったように見える。
それから鈴夏は照れ隠しのつもりか、おどけたように言って見せた。
「いやいや、けど、結人くんなら私の才能を分かってくれるって、信じてましたから。
なにせ君は私の、『大切な友達』、だからね」
「……うん、そうだね」
気のきいた返しが思い浮かばずにそう答えると、鈴夏はわざとらしく、ふふふ、と笑った。
「そこはいつもみたいに『馴れ馴れしいよね、きみ』とでも言ってほしかったよ。私だけ恥ずかしいこと言ったみたい」
「鈴夏さんのお人柄なら多少馴れ馴れしくしても許されるから、だいじょうぶ」
「……うん……? 一周回ってバカにされた気がするけど、一応喜んどく」
「それでよろしい。鈴夏さんは素直で助かるよ」
「素直だから助かる……? それ、やっぱ私がバカだってことじゃない」
「あ、バレた?」
「――この腹黒くんめ」
「冗談だって――痛ててっ!?」
本当に彼女の『大切な友達』になれたかのは分からないけれど、お互いにばかみたいなやりとりができるくらいにはなっていた。
星野鈴夏は、シラコーのマスコットのウドゥンという名前の狐のキャラが好き。
三巻の中盤、作中のボランティア部の部室に転がり込んできた人語を喋る狐は、「非常食くらいにはなりそうよ」という主人公の手で「きつねうどん」っぽい名前をつけられた、というなんとも酷な話。
鈴夏との会話で知った情報を、シラコーを読み返して復習する。
今は七巻まで買えた。彼女におすすめされた『白百百高校凸凹カルテット』の漫画は、時間とお金を見繕っては少しずつ読んでいた。
中学二年の五月の終わり、僕は星野鈴夏と市の文化会館を訪れていた。
鈴夏の描いた絵が市の小さな出展で展示されることになったのだ。
会場のコルクボードに貼られた数々の作品。鈴夏はその中の一枚の前で立ち止まった。
その絵は、元々は僕が見たいと言い出したものだった。
「……その、この前のスケッチがすごく上手かったから、鈴夏さんの他の絵も見てみたいって思ったんだ」
鈴夏の八面ダイスに描かれた僕のスケッチ、そのモチーフになった、シラコーの漫画。
僕の顔は作中の主要キャラのひとりに似せて描かれていた。
それ以来、彼女のオリジナルかつ本気の作品も気になっていた。
「結人くんにそう言われるなんて、――なんか照れるよ」
鈴夏はめずらしく、口もとを片手で覆って恥ずかしそうにそっぽを向いた。自信はないが、少しだけ髪も切ったように見える。
それから鈴夏は照れ隠しのつもりか、おどけたように言って見せた。
「いやいや、けど、結人くんなら私の才能を分かってくれるって、信じてましたから。
なにせ君は私の、『大切な友達』、だからね」
「……うん、そうだね」
気のきいた返しが思い浮かばずにそう答えると、鈴夏はわざとらしく、ふふふ、と笑った。
「そこはいつもみたいに『馴れ馴れしいよね、きみ』とでも言ってほしかったよ。私だけ恥ずかしいこと言ったみたい」
「鈴夏さんのお人柄なら多少馴れ馴れしくしても許されるから、だいじょうぶ」
「……うん……? 一周回ってバカにされた気がするけど、一応喜んどく」
「それでよろしい。鈴夏さんは素直で助かるよ」
「素直だから助かる……? それ、やっぱ私がバカだってことじゃない」
「あ、バレた?」
「――この腹黒くんめ」
「冗談だって――痛ててっ!?」
本当に彼女の『大切な友達』になれたかのは分からないけれど、お互いにばかみたいなやりとりができるくらいにはなっていた。