僕は気が抜けて階段に座り込んだ。そのまま二人に説明する。
「相坂さんは、和歌子ちゃんが未来写真を撮ったとき、先輩のすぐ後ろに、ガラス越しにいたんだ。
 たしか、ファミレスの中にいた高校生のグループの一人」
「それって、つまり……、わたしが撮影したのは、白河先輩じゃなくて、同じタイミングで奥のファミレスにいた相坂さんだったってことですか!?」
 この駅前は和歌子のちからが弱まる、時計台の見えにくい場所。それが元で、混乱をいくつも招いてしまった。僕が漫画のことに気をとられてしまったのも大きいが。
 未来写真の被写体は、「マネキンと同じ服装をしていた」白河先輩じゃない。先輩はそもそも今回の不幸とは関係がなかった。
 相坂さんの髪型と、写真の下端に写りこんだ、驚いて立ち止まっている人たちの後ろ頭、その中の一つを見比べる。
 顔はぼやけていて特定できないが、その髪型を相坂さんと比べると、なるほど、同じだった。
 今、地上から驚いたように見上げている相坂さんが、ほんとうの被写体だったのだ。
 サイン会の会場で相坂さんに感じていた、過去にどこかで会ったような、という既視感。
 それは、ファミレスのガラス越しに無意識に捉えていた相坂さんの姿だったのだ。
「相坂、あのとき中にいたのかよ……気づかなかった」
「コージはデパートに入るまで未来写真を見てうなってたからね。写真の中のポーチの有無に目が行ってたから、お店に相坂さんがいることに気づかなかった」
「あちゃあ……」
「さっきも、コージの『先輩が、数分後に飛び降りる』発言はルール違反だって思って僕もヒヤヒヤしてたけど、間違った予想をいくら話したところで、未来写真が溶けるわけなかったんだ。
 落ちるのはマネキンで、本当の不幸は、サイン会帰りにちょうど真下にいた相坂さんの危険だったんだから」
「でも白河先輩は、なんでマネキンと同じ服を――」
 孝慈がぼやいていると、階段の後ろから、
「おーい、みんなぁ、楽しそうだよねー、私も混ぜてー」
とのんきな声がした。
 先輩はマネキンを見るなり目をまるくした。
「えっ!?」
「先輩、どういうことなんです?」
 僕が聞くと、白河先輩はため息をつく。
「九月の文化祭で、ミスミスターコンテストあるじゃない。私、クラスの推薦で、今年もエントリーすることになっちゃったの。あのコンテストって今年から新しくなるんだけど、知ってる?」
「ええ、まぁ」
 孝慈がスマホに撮ったのを見せてくれた、あの白河先輩が写ったポスターに書いてあった。
「ミスミスター仮装コンテスト。参加条件は、学校指定の制服以外であること」
「例年通りなら制服でも良かったんだけど、今年から名前が変わって制服はダメになっちゃって。
 だからこの前、私服を無難そうなマネキンで選んだんだ。私の私服かなり酷くて、このままじゃミスコン出れないからさ」
 マネキンを見る先輩の顔が赤い。
「一点モノっぽかったから安心してたし、このコーデ結構お気に入りだったのに。
 マネキン買いってばれてめっちゃ恥ずかしいよ。選びなおしだね、こりゃ」
 先輩が言い終えると、和歌子と未来写真の周りとが光り始めた。