自販機の横には、小さなガチャポンの機械がいくつか設置されていた。
 その中でも先輩が回していたらしい筐体には『迷作B級映画の小道具キーホルダー』と書いてある。いかにも、なチョイスだった。
「ただ、知られるのが嫌で、ずっと隠してたことがあったから。
 でもさっき、小野寺くんが悩みがあるなら聞くって本気で心配してくれた。だから、この際打ち明けてみようと思ったの」
「何を……?」
「――だから、私がデートの時にアングラなB級ホラー映画を見たがったせいで、その男の子にドン引きされちゃったあげく、ショッキングなシーンで一週間寝込ませて、そのままふられちゃったこと」
「え。それで全部!?」
「うん、それ以来、『私はこういう人間です』っていう注意の意味も込めて、お気に入りのゲテモノ妖怪キーホルダーを肌身離さず持ち歩いている。
 映画館デート事件はもう一年も前のことなんだけどね」
「ごめんなさい白河先輩……それ、もう知ってます」
 孝慈が頭に手をやって言う。俺の心配は何だったんだ、とでも言いたげだ。
「学年、いや、学校じゅうで広まっちゃってます」
 先輩は耳まで真っ赤になる。
「ええ、嘘!もう知ってるんだったら、私、こんなに深刻になっちゃって、超恥ずかしくない!?
 で、でもキーホルダーの意味のことは初耳でしょ!?だって、今初めて話したんだもの」
「……あはは、まぁでも、俺はそんな我が道を行く白河先輩を応援してますよ」
 学校一の先輩には弱いのか、孝慈は取り繕って笑った。
 松野が困ったようにつぶやく。
「……先輩、問題はなかったみたい。これからどうしよ」
「とりあえず、残り時間まで白河先輩を監視だ。良くも悪くもほんとに目が離せない人だから」
 孝慈が小声で言った。
「和歌子、とりあえず写真を撮り直してくれ」
「あっ、すっかり忘れてました! 白河さんを探してたのって、元々は写真を撮り直すためじゃないですか!」
「まぁ、今から撮影するのは念のためだし、あまり気にするな。何はともあれ、解決して良かったじゃん」
「そうですね……って、あれ? 変です」
「……どうしたの?」松野が和歌子のようすを気にしている。
「おかしいです、撮り直そうとして、構えてるのに――、未来写真が撮れません……!」
「え?」
「……そうか」
 僕はつぶやく。
 未来写真が撮れない。
 そんな和歌子の一言から、疑問がじわじわと溶けていく。
 すべて分かりきる前に、僕はある場所を探した。
「コージ、非常口にはどこから行ける!?」
「加澤――? 何を突然――、」
「五階の非常口だ、コージ!」
「おい、いったいどうしたんだよ」
「あの写真の先輩は、何もかも違うんだ。時間がないからってこんなミス……、関係ないことでぼんやりもして、僕はほんとうに馬鹿だ」