再び屋上に到着すると、フェンスの正面、自販機の横でかがみこむ白河先輩の後ろ姿があった。
「白河先輩っ!」
 孝慈がかけよる。
「……小野寺くん?」
 白河先輩は立ち上がると、ゆっくりと振り向いた。
 孝慈は先輩の前に立ち、必死に説得を試みる。
「先輩、早まらないでください! 悩みがあるなら、俺が聞きます! ――だからどうか、踏みとどまってください……!」
「小野寺くん……」
 孝慈の全身全霊の説得に、白河先輩は、
「……ありがとう」
 頭を下げてから、ぽつりぽつりと語り始める。
「……私、ずっと前に男の子にふられちゃったみたいでさ」
「白河先輩――?」
「相手をそっちのけにして映画に夢中になりすぎて、それ以来もう誘ってくれなかった。このポーチに付けたキーホルダーは、もうだいぶ前にガチャポンで衝動買いしたお気に入り。
 そろそろ古くなってきたけど、私の趣味をあらかじめ分かってもらうために、今もこうして持ち物につけてるんだ。『私はちょっと変わってるからご了承ください』ってつもりで」
「……うん?」
「それは置いといて、最近また、面白そうなガチャポン見つけちゃったんだ」
「へ?」
「今日こそフルコンプしようと思ってたんだけど、持ち合わせが厳しくて迷ってたんだ。
 あと二千円使えばもしかしたら――、けど、おこづかいがピンチだ……って。
 でも小野寺くんがさっき、『早まらないで』『踏みとどまって』って言ってくれたおかげで冷静になれたよ。
 高校生活最後の夏なのに、こんなところでおこづかい使いきっちゃったら、友達と遊べなくなっちゃうし」
 なんだか、先輩の話がガチャポンのことになってるような。
 そんな白河先輩に、孝慈が言う。
「ほえ? 先輩、俺がしてるのはガチャの話じゃなくて……先輩の飛び降りなんだと思って……だから俺、早まらないでくださいって、言ったつもりだったんすけど……」
「ちょっと、飛び降り!? 誰が、誰が飛び降りたの!?」
「だから、白河先輩が――」
「コージさん、いけません! それは未来写真のルール違反です!」
 和歌子が叫んだ。
「オレンジ色のひかりが出る前に本人に言っちゃったら、未来写真が溶けて無くなって、葉っぱが集まらなくなっちゃうんです!」
「――白河先輩が、数分後に飛び降りるっす!」
 時すでに遅しだった。
「……コージくん、もう言っちゃったよ」松野が肩を落とす。
「あれ? でも、写真、溶けないですね」と和歌子が不思議そうにする。
 僕が持っている先輩の未来写真が溶ける気配はない。
「なんだか知らないけど、ラッキーでしたね。先輩には孝慈さんの発言が聞こえなかった、とかでしょうか」
 しかし、聞こえてはいたみたいで、白河先輩は孝慈の発言にぽかんとする。
「? とにかく私、飛び降りだなんて、そんなことするつもりは無いよ? 屋上に来てたのだって、このガチャポン回すためだったし」
 そう言って、先輩は屋上の端から離れる。