松野は特別動揺したようには見えない。
彼女はサイン会の案内をちらりと見たが、さっと視線を外した。
無関心なのか、そう装っているだけなのか。彼女はあまり表に出ないので、なんとも言えない。
その時、
「あれ、相坂じゃないか!?」と孝慈がちょうどそこを通りかかった誰かに声をかけた。
「あ、コージじゃん!」
その人物がピタリと立ち止まる。歌高の女子のようだ。この人はたしか、隣のクラスの人だった気がするが……?
「ってことは――、」
彼女はそう言って、僕たちのところに駆け寄った。
女子生徒は孝慈の横の、僕と松野を見て「やっぱりグループワークかぁ」と言う。
「加澤くんも、久しぶり」と女子生徒は僕に言った。
「え?」
どこかで会ったっけ、と一瞬悩んでいると、
「ほら、いつぞや廊下で話したじゃん」
そう言われて思い出した。
「あ、ごめん――相坂さん」
「良いって良いって。あたし、口数のわりに地味だからさー」と相坂さんは気にしないようすで笑った。
相坂さんは二週間前、班決めのあとに廊下で話しかけてきて、僕たち三人を珍しい組み合わせだね、と評したあの人だ。
そして、孝慈の中学時代、彼がバスケ部だった時のウワサを知ってる?と聞いてもきたっけ。
孝慈本人は、ケガが原因で部を辞めた、とだけ言っているようだけど、相坂さんによると、その件については不穏な憶測が一年生の間で飛びかっているらしい。
火の無いところに煙は立たないとは言うけども、結局、孝慈って、中学の時何があったんだろう。
――それは置いておいて――なんだろう。相坂さんから感じるこの既視感は。
見た限り、彼女はどこにでもいそうな感じの明るい高校生。
だけど、僕は相坂さんと、過去にどこかで会ったことがあるような気がしていた。
二週間前に、初めて話した時の記憶と混同していると言われれば、それまでなんだけど……。
もっと、学校以外の別の場所で、僕は相坂さんを……気がする。けど、このモヤモヤ感の正体がいまいち分からない。
それから、相坂さんは松野に聞いた。
「松野さんもシラコー好きだったりする?」
「……え?」
松野はどうして自分に振られたかわからず驚いたようだ。相坂さんは質問につけ加える。
「だって、少女漫画じゃん、シラコーって。この三人の中で読みそうなのって女子の松野さんくらいだと思ってさ」
松野は答える。
「でも、男の子にも人気……あっ」
「なになに松野さん、やっぱりこの漫画知ってるの?」と相坂さんが笑う。
「……ううん、サインの列に男子も並んでるし、そうじゃないかって思っただけだよ……わたし、読んだことなくて」
「おお、そういえば男子率も高いね! あの男子とか、グッズにサインもらって超嬉しそうだし」
相坂さんは納得したようだ。
「なるほどねー、あたし、最近読み始めたばかりだから分からなくて」
「……そうなんだ」松野が言った。
そして、相坂さんは僕に言う。
「話は変わるけど、加澤くんとコージって、すっかり相棒同士みたいじゃん」
「え、僕が?」
「うん。お互い隠しごともできないほどの仲なんでしょ? いつも一緒に行動しちゃってさ」
「……それはちょっと言い過ぎだし、あらぬ誤解を招くぜ」
と孝慈がつっこむ。
彼女はサイン会の案内をちらりと見たが、さっと視線を外した。
無関心なのか、そう装っているだけなのか。彼女はあまり表に出ないので、なんとも言えない。
その時、
「あれ、相坂じゃないか!?」と孝慈がちょうどそこを通りかかった誰かに声をかけた。
「あ、コージじゃん!」
その人物がピタリと立ち止まる。歌高の女子のようだ。この人はたしか、隣のクラスの人だった気がするが……?
「ってことは――、」
彼女はそう言って、僕たちのところに駆け寄った。
女子生徒は孝慈の横の、僕と松野を見て「やっぱりグループワークかぁ」と言う。
「加澤くんも、久しぶり」と女子生徒は僕に言った。
「え?」
どこかで会ったっけ、と一瞬悩んでいると、
「ほら、いつぞや廊下で話したじゃん」
そう言われて思い出した。
「あ、ごめん――相坂さん」
「良いって良いって。あたし、口数のわりに地味だからさー」と相坂さんは気にしないようすで笑った。
相坂さんは二週間前、班決めのあとに廊下で話しかけてきて、僕たち三人を珍しい組み合わせだね、と評したあの人だ。
そして、孝慈の中学時代、彼がバスケ部だった時のウワサを知ってる?と聞いてもきたっけ。
孝慈本人は、ケガが原因で部を辞めた、とだけ言っているようだけど、相坂さんによると、その件については不穏な憶測が一年生の間で飛びかっているらしい。
火の無いところに煙は立たないとは言うけども、結局、孝慈って、中学の時何があったんだろう。
――それは置いておいて――なんだろう。相坂さんから感じるこの既視感は。
見た限り、彼女はどこにでもいそうな感じの明るい高校生。
だけど、僕は相坂さんと、過去にどこかで会ったことがあるような気がしていた。
二週間前に、初めて話した時の記憶と混同していると言われれば、それまでなんだけど……。
もっと、学校以外の別の場所で、僕は相坂さんを……気がする。けど、このモヤモヤ感の正体がいまいち分からない。
それから、相坂さんは松野に聞いた。
「松野さんもシラコー好きだったりする?」
「……え?」
松野はどうして自分に振られたかわからず驚いたようだ。相坂さんは質問につけ加える。
「だって、少女漫画じゃん、シラコーって。この三人の中で読みそうなのって女子の松野さんくらいだと思ってさ」
松野は答える。
「でも、男の子にも人気……あっ」
「なになに松野さん、やっぱりこの漫画知ってるの?」と相坂さんが笑う。
「……ううん、サインの列に男子も並んでるし、そうじゃないかって思っただけだよ……わたし、読んだことなくて」
「おお、そういえば男子率も高いね! あの男子とか、グッズにサインもらって超嬉しそうだし」
相坂さんは納得したようだ。
「なるほどねー、あたし、最近読み始めたばかりだから分からなくて」
「……そうなんだ」松野が言った。
そして、相坂さんは僕に言う。
「話は変わるけど、加澤くんとコージって、すっかり相棒同士みたいじゃん」
「え、僕が?」
「うん。お互い隠しごともできないほどの仲なんでしょ? いつも一緒に行動しちゃってさ」
「……それはちょっと言い過ぎだし、あらぬ誤解を招くぜ」
と孝慈がつっこむ。