階段を一フロア降りて、僕たちは五階に行く。
 五階はまるまる一階ぶんある大型書店のフロアだ。
 入り口には立て看板が置かれている。看板には『サイン会会場』と書いてあって、奥のほうに人が並んで列を作っていた。
 サイン会? そういえば、今日はやけに人が多いような――。
(……え?)
 僕のなにげない視線は、立て看板の文字に釘付けになった。
「……嘘だろ」
【漫画家 仁井つかさ先生サイン会 『白百百高校凸凹カルテット』と続編『幸運集めます!白百百高校凸凹カルテット』作者】
シラコー……星野鈴夏。サイコロ。イラスト。
 看板に書かれたタイトルを見ただけで、心臓が嫌な鼓動を立てた。
「ん……どうした、加澤」
 びくりとして振り向くと、孝慈が立っていた。
「うん……ちょっと、気になって、ね……」
 落ち着くんだ。加澤結人。お前は――。
 そうだ、シラコーは、有名ではないけど、知る人は知ってる漫画だし。
 たまたまサイン会が歌扇野で開かれてたって、なんの不思議だってない。
 続編がもう出ていたなんて、知らなかった。
 けど――看板に書かれている、もうひとつのタイトル。
『幸運集め』ます――? それって……。
 孝慈と和歌子は、漫画のタイトルにはまだ気づいていないようだ。
――幸運集め? 続編?
 幸運集めのフォークローバー?
 僕たちの班の名前?
 奇しくも、幸運集めが一緒で……。このグループ名をつけたのは……孝慈? 和歌子? 違う。
 松野だ。覚えている。最初の班決めの時だ。松野がこう言ったんじゃないか。
『……班の名前は、その、「幸運集めのフォークローバー」なんていうのはどうかな』、と。
 僕の戸惑いには気づかず、孝慈が言う。
「――あ、そういや松野がつけたんだな」
「……え?」
「幸運集めのフォークローバーって、俺たちのグループ名だろ。もしかして、このちょうどサイン会やってる凸凹カルテットって漫画から取ったのか?」
「……ううん、偶然だよ」
 松野はそうとだけ答えた。
 孝慈もそれ以上追求はせず、そうだよなーと言って、ははっと笑った。
 動揺している僕に比べると、彼の反応は当たり前だった。仮に松野が嘘を言っていて、グループの由来がシラコーにあったとしても、驚く理由がない。僕以外は。
 鈴夏の好きだった漫画が松野も好きかもしれない、そんな共通点を勝手に想像して、松野と鈴夏とを重ね合わせそうになる僕以外は。
「加澤、サイン会が気になるのはわかるが、まずは未来写真のほうを片付けようぜ」
 孝慈に言われて、ぼうっとしていたことに気づいた。
 松野のほうをそっと見る。