途中まで読んだところで孝慈が言う。
「なんか今年から仮装がメインになるみたいだが、まぁいいや。
 とにかく、今年の文化祭も先輩が優勝だろうと言われてるほどの人気でさ。――あ、でも白河先輩って帰国子女で、その影響もあるのかしら、ちょっと不思議な人なんだ」
「不思議な人?」
「わたし、白河さんのこと、よく知ってますよ」
 和歌子だった。
「なんで和歌子が?」
「そりゃあ、生徒たちの立ち話で彼女のエピソードはよく聞きますから……彼女はとてもユニークです」
「どうユニークなの?」
「お前も見ただろ、さっき先輩の持ってたポーチ」
「ああ、ゾンビみたいなキーホルダーがいっぱいついてた……」
「十二個です。あれは『ゲテモノ妖怪キーホルダー』というガチャポン商品で、どうしても全種類欲しくて、昔おこづかいを使い果たしてコンプしたらしいです」
「さっき可愛いって言ってたね……」
「話は他にもあるぞ」孝慈が頷く。
 和歌子は頷き返して続ける。
「はい。なんでも彼女、えげつないB級映画が大好きらしいです。
 かつて憧れの白河さんを映画館に誘った男子がいたのですが、彼女が観たいと言った映画を一緒に鑑賞した彼は、体調を崩して一週間寝込んだそうです」
「その映画は、虫嫌いが卒倒しそうな内容の、エグい昆虫パニックホラーだったんだ……。
 先輩本人は『虫さん達の絆に感動しちゃった』なんて言って、満足そうに映画館から出てきたらしい。
 そんな伝説も伝わってる、ちょっと残念なミス歌高なんだ」
「あはは……」
 そんなとき、和歌子が言った。
「――近くにいます!」
「え?」
「不幸な人の反応が近いです……たぶん」
 和歌子は自信なさげに手をカメラのかたちに構えていた。
 彼女の手の先を見ると、さっきの白河先輩がずっと遠くの角を曲がって消えたところだった。
 和歌子はもう写真を撮ったようで、手には一枚の新たな未来写真が握られていた。
 だが、なにやら浮かない表情だ。和歌子は言う。
「未来写真は撮れました。……でも、これじゃあちょっと遠いかもしれないので――」
 なにやら和歌子がまごついている。うまく写真を撮れなかったのだろうか。
「もう一枚撮りたいです! ……すみません」と和歌子が頭を下げた。
「なので、追いかけましょう。こっちです」
「誰だったの? とりあえず、写真を見せてよ」 
 早足で和歌子の後を追いながら、彼女に渡された未来写真を見る。
未来写真が捉えていたのは、一人の女性がビルのすきまからまっ逆さまに転落する瞬間だった。
 下端には、ちょうど近くにいたと思わしき男女何人かの後ろ頭が映りこんでいて、ぎょっとしたように落下の瞬間を見上げている。
 そして、落ちている女性の服装は、白い半袖のトップスと、くるぶしまでの紺のロングスカート。
 今さっき見たばかりの服装に、心臓が跳ねる。
「これ、落ちてるのって、さっきの白河先輩だよね……」僕は並んで歩くコージに確認する。
「和歌子ちゃんが撮ったとき、ちょうど先輩が角を曲がってったから。まさかとは思ったけど……やっぱり」
「……ああ、写真がぼやけててよく分からないが。先輩、なんでこんなことになってんだよ――」