やがて到着したレンガの家風の外装。クレープ屋にはちょっとした行列ができていた。
「並んじゃう?」
「うん」
「僕、行列は苦手だからこういう店は避けちゃうなあ。なんかいかにも流行って感じで」
「わたしも。本当はテレビでやる前から行きたかったんだけど、なんかその直後に行くとミーハーすぎるかなって、行きたいけど変なプライド張ってて、だんだん悔しくなって」
「わかるよ、僕も音楽聴くときとか、同じようなことになる。ちょっとマイナーなバンドが好きだから、有名になったりすると変な意地張っちゃって」
「……え、何のバンドが好きなの?」松野が言った。
「『Base Ball Bear』ってバンド」
僕が答えると、松野は無言で「おお」と両手を合わせた。どこか嬉しそうだった。
「あ、そのバンドの曲、わたしもちょっと知ってるよ。МV見たことある。一時停止して何の本か見てたっけ」
「おお、松野も知ってたんだ。女の子が文庫本読んでるんだよね。たしか、夏目漱石の『こころ』」
「え、そうだったんだ! わたし、結局わからなかったよ。でも、良いよね。夏らしくて、なんか懐かしい気持ちになって」
「うん、夏だよね。あ、そういや本持ってるМVまだあった」
「え、知りたいな」
松野と話が合ったのは、普通の女の子と話が合うことよりもずっと嬉しかった。
他愛もない会話とともにクレープの行列に並びながら、そういえば、と別の話になる。
教師の不祥事が相次いでいるという話を、最近聞いた。
大人って、どうしてあんなに見ていてもどかしいんだろう。
僕は高校生の力の無さ、未熟さがとても悔しい。
でも、未熟なりに、大人に勝てないなりにいまを全力で生き抜くしかないんだ。でも、その全力も、ほんとうに意味があるんだろうかと、悩んでいた。
僕は自分の未熟さがずっと嫌で、早く大人になりたいってよく思ってた。思って、自分を攻め立て奮い立たせるための、がむしゃらな原動力にしてきた。
だけど、最近思うようになったのだ。大人って、そんなにすごいものなんだろうか、と。
進路のことだってそうだ。何かが変わるかもしれないと思い、いろいろあって腐っていた自分を奮い立たせて、進学校である歌扇野高校に入ったこと。
けれども、自分の夢、大人になってからどうしたい、ということが高校生の今、いくら悩んでも見つからない。
「自分をなんとかしたくて頑張ってるのに、前に進んでる感じがしない。変わりたいのに変われない自分が悔しい。必死に答えを探し続けているのに、どうしても見つからない。
それら全部がもどかしくて、たまらないんだ」
「その気持ちわかるよ、加澤くん」
「並んじゃう?」
「うん」
「僕、行列は苦手だからこういう店は避けちゃうなあ。なんかいかにも流行って感じで」
「わたしも。本当はテレビでやる前から行きたかったんだけど、なんかその直後に行くとミーハーすぎるかなって、行きたいけど変なプライド張ってて、だんだん悔しくなって」
「わかるよ、僕も音楽聴くときとか、同じようなことになる。ちょっとマイナーなバンドが好きだから、有名になったりすると変な意地張っちゃって」
「……え、何のバンドが好きなの?」松野が言った。
「『Base Ball Bear』ってバンド」
僕が答えると、松野は無言で「おお」と両手を合わせた。どこか嬉しそうだった。
「あ、そのバンドの曲、わたしもちょっと知ってるよ。МV見たことある。一時停止して何の本か見てたっけ」
「おお、松野も知ってたんだ。女の子が文庫本読んでるんだよね。たしか、夏目漱石の『こころ』」
「え、そうだったんだ! わたし、結局わからなかったよ。でも、良いよね。夏らしくて、なんか懐かしい気持ちになって」
「うん、夏だよね。あ、そういや本持ってるМVまだあった」
「え、知りたいな」
松野と話が合ったのは、普通の女の子と話が合うことよりもずっと嬉しかった。
他愛もない会話とともにクレープの行列に並びながら、そういえば、と別の話になる。
教師の不祥事が相次いでいるという話を、最近聞いた。
大人って、どうしてあんなに見ていてもどかしいんだろう。
僕は高校生の力の無さ、未熟さがとても悔しい。
でも、未熟なりに、大人に勝てないなりにいまを全力で生き抜くしかないんだ。でも、その全力も、ほんとうに意味があるんだろうかと、悩んでいた。
僕は自分の未熟さがずっと嫌で、早く大人になりたいってよく思ってた。思って、自分を攻め立て奮い立たせるための、がむしゃらな原動力にしてきた。
だけど、最近思うようになったのだ。大人って、そんなにすごいものなんだろうか、と。
進路のことだってそうだ。何かが変わるかもしれないと思い、いろいろあって腐っていた自分を奮い立たせて、進学校である歌扇野高校に入ったこと。
けれども、自分の夢、大人になってからどうしたい、ということが高校生の今、いくら悩んでも見つからない。
「自分をなんとかしたくて頑張ってるのに、前に進んでる感じがしない。変わりたいのに変われない自分が悔しい。必死に答えを探し続けているのに、どうしても見つからない。
それら全部がもどかしくて、たまらないんだ」
「その気持ちわかるよ、加澤くん」