翌日の午前十時、松野は駅前にあるバスターミナルで待っていた。
 バスに乗れば郊外のショッピングモールなどに行けるが、今回はあくまでも待ち合わせ場所だった。
 松野がメールのやりとりで提案してきたのは、商店街の通りだった。地元テレビで紹介されたクレープの店があるらしい。
 僕はターミナルのベンチ前で彼女の後ろ姿を発見する。
「ごめん。もしかして、待った?」
「ううん、わたしも今さっき来て、ちょうどいい座り場所を見繕ってたとこ」
 そう言った松野だけど、今のは絶対に待っててくれた時の台詞だ。
 すぐに、ドラマとかでよくあるやり取りをお互い無意識にしてしまった気がして、気恥ずかしくなった。
 胸の鼓動が全身にじんわりと染み込んでいく。僕はつとめて平静を装い、言った。
「そうなんだ……えっと、まだ早いけどどうしよう、行こうか?」
 一応僕がリードしなければいけない気がしていたためか、つい急かすような言い方をしてしまった。
「……うん」
「クレープ屋さん?」
「……うん、密かに気になってたから」
 答える松野はいつもより声が弾んでいる気がした。
 その様子に、僕は彼女とメールを交換したばかりの時、孝慈に言われたことを思い出す。
『同級生だった立場から一つだけ言わせてもらうと、松野は心を開いた相手とは比較的しゃべるようになるタイプ』
 孝慈に言われたことがしばらく頭の片隅にあったためか、商店街まで歩くあいだ、話題は孝慈のことになった。
 聞けば、孝慈は歌扇野からはずっと離れた、瀬奈《せな》中学というところのバスケ部だったらしい。
 そういえば松野は、孝慈と中学が一緒だと言っていた。つまり松野も瀬奈中学出身。
 孝慈が中学の途中でバスケを辞めたことについて、何か知らないだろうか。僕が聞くと、
「わたしにもわからない。ただ、バスケ部で暴力沙汰があったらしくて、孝慈くんが辞めたのもその時期だった」
返ってきたのはそんな不穏な返答だった。
「コージとその事件と、何か関係があるの?」
「わからない。不確かな憶測で決めつけるわけにもいかないし」と松野は言った。
「そうだよね」
 孝慈のことは非常に気になるが、松野はそれ以上は知らないようだ。
 商店街の間には様々なものがあった。
 小さな神社に、お土産屋。ドラッグストアのチェーン店ができていたのは今まで気づかなかった。
 ここもグループワークの題材に使えるかもしれないなどと、頭の中はついそちらを思い出してしまう。