絵の話、とりわけシラコーの話をする間の鈴夏はとても輝いていて。
嘘まみれの僕もこの輝きの側にいれば、もしかしたら偽らない自分でいられるかもしれない、そんなエネルギーを彼女からは感じた。
僕はこの時、きっとこれが、彼女の偽らない本来の姿なんだと、確信した。
あの美術室での、『本当の友達』の話を聞いた後では、なおさらだった。
鈴夏の漫画風のスケッチが終わり、今度は僕がサイコロの大切な友達の面を描きはじめた。
正面に向き直って僕を見る彼女は、絵に描くにはあまりにもまぶしすぎた。
僕はどうしていいか分からず、彼女の頬のあたりから線を引いていったが、あまりにもおそれ多くて次の段階に進むことが出来ない。
「僕は絵が下手だから難しいや。横顔のスケッチでも良い?」
苦渋の決断に、鈴夏は笑って答えた。
「良いよ、結人くん」
ホッとした。美術の授業をその場しのぎでやってきた僕ごときが、自分の拙い画力で彼女の可愛い顔を写そうだなんて、あまりにもおこがましい気がしたのだ。
そしてさらにおこがましいのだけど、僕は鈴夏の横顔のスケッチだけは誰にも負ける自信が無かった。
鈴夏の明るくて前向きな性格をよく表す、希望へと向かって今にも舞い上がりそうな、きらきらしたショートヘアーの横顔。
かすかに揺れる短い髪のうしろで、窓から差す陽の光が首すじの切り揃えたラインを儚げに強調している。
「――できた」
小さなサイコロの面に彼女を描くため、鉛筆を四回も削った。
渾身の一作にして会心の一撃。
ガッツポーズとともに顔を上げた僕は鈴夏に「気合い入れて書き込みすぎ」と笑われた。
「このままじゃ未提出になるし、折角だから先生のところに持って行こ」
翌日の朝、僕たちはサイコロを提出しに行った。
先生はすでに美術室にいて、床にブルーシートを広げて次の授業の準備をしていた。
灰色の長い髪の毛が特徴的で、眼鏡の下の目つきがいつも穏やかな男性だった。
先生はお互いの似顔絵を描きあった『大切な友達』の面について直接何か言うことはなかったが、僕たちのサイコロを提出用の机の上に置くとこう言った。
「学生生活は一度きりです。常に進路のことを考えて行動するのもたしかに大切ですが、今この瞬間を出し惜しみせずに駆け抜けることの方が大切だと、私は思います」
全教科ばっちりの鈴夏と、美術からっきしの僕。
しっかり者の優等生が、落ちこぼれの世話を焼いているようにも見える組み合わせ。
それを見て、内申を気にして提出しにきたと思われたのか、それとも僕たちのようすに何かを思って言ったのか。それは未だにわからない。
二年生に進級したばかりの四月の出来事だった。
嘘まみれの僕もこの輝きの側にいれば、もしかしたら偽らない自分でいられるかもしれない、そんなエネルギーを彼女からは感じた。
僕はこの時、きっとこれが、彼女の偽らない本来の姿なんだと、確信した。
あの美術室での、『本当の友達』の話を聞いた後では、なおさらだった。
鈴夏の漫画風のスケッチが終わり、今度は僕がサイコロの大切な友達の面を描きはじめた。
正面に向き直って僕を見る彼女は、絵に描くにはあまりにもまぶしすぎた。
僕はどうしていいか分からず、彼女の頬のあたりから線を引いていったが、あまりにもおそれ多くて次の段階に進むことが出来ない。
「僕は絵が下手だから難しいや。横顔のスケッチでも良い?」
苦渋の決断に、鈴夏は笑って答えた。
「良いよ、結人くん」
ホッとした。美術の授業をその場しのぎでやってきた僕ごときが、自分の拙い画力で彼女の可愛い顔を写そうだなんて、あまりにもおこがましい気がしたのだ。
そしてさらにおこがましいのだけど、僕は鈴夏の横顔のスケッチだけは誰にも負ける自信が無かった。
鈴夏の明るくて前向きな性格をよく表す、希望へと向かって今にも舞い上がりそうな、きらきらしたショートヘアーの横顔。
かすかに揺れる短い髪のうしろで、窓から差す陽の光が首すじの切り揃えたラインを儚げに強調している。
「――できた」
小さなサイコロの面に彼女を描くため、鉛筆を四回も削った。
渾身の一作にして会心の一撃。
ガッツポーズとともに顔を上げた僕は鈴夏に「気合い入れて書き込みすぎ」と笑われた。
「このままじゃ未提出になるし、折角だから先生のところに持って行こ」
翌日の朝、僕たちはサイコロを提出しに行った。
先生はすでに美術室にいて、床にブルーシートを広げて次の授業の準備をしていた。
灰色の長い髪の毛が特徴的で、眼鏡の下の目つきがいつも穏やかな男性だった。
先生はお互いの似顔絵を描きあった『大切な友達』の面について直接何か言うことはなかったが、僕たちのサイコロを提出用の机の上に置くとこう言った。
「学生生活は一度きりです。常に進路のことを考えて行動するのもたしかに大切ですが、今この瞬間を出し惜しみせずに駆け抜けることの方が大切だと、私は思います」
全教科ばっちりの鈴夏と、美術からっきしの僕。
しっかり者の優等生が、落ちこぼれの世話を焼いているようにも見える組み合わせ。
それを見て、内申を気にして提出しにきたと思われたのか、それとも僕たちのようすに何かを思って言ったのか。それは未だにわからない。
二年生に進級したばかりの四月の出来事だった。