その週の日曜日、僕と鈴夏は歌扇野の図書館を訪れた。
入ったのは、ロビーにある休憩スペース。その中でも、二人一組の長机が並ぶ一角だった。
長机の前で、僕と鈴夏はそれぞれ椅子を引いて向かい合っていた。
「大丈夫、先生には後で、『できなかったから家で仕上げた』と言えば良いし。私も一緒に出しに行くから」
鈴夏の提案で、未完のサイコロは美術室からそれぞれ持ち帰ってきていた。先生には、月曜日に朝一で提出することにしたのだ。
彼女は「その前に準備運動」と言って、自前のスケッチブックに即興でイラストを描いてみせた。
「名前はどうしよう。――おふとんねこ、でいっか」
彼女が今さっき考えたというオリジナルキャラクターだった。布団と猫が合体したようなキャラで、顔文字のような目を閉じて幸せそうに眠る謎の小動物。
お店でファンシーグッズとして売ってる癒しキャラ達と並んでも、なんら遜色のないデザインだった。
「絵が好きなの?」
「うん。意外?」
答えながら、嬉々として描いたばかりのキャラクターを見せる彼女に僕はドキリとした。
「じゃあ、そろそろ。結人くん、こっち向いてて」
「うん」
鈴夏は右手に鉛筆、左手に自分のサイコロを持ち、スケッチを描きはじめる。
「あ、もし今の僕の顔、変になってたらごめんね」
「ううん、いつも通りだから大丈夫。私こそデフォルメして漫画のキャラ風にするからそのつもりで」
「いや、むしろ省略してくれたほうがいろいろと安心だよ。ところで、漫画っていうと、意識してる作品とかはあるの?」
「うん。『白百百《しらもも》高校《こうこう》凸凹《でこぼこ》カルテット』っていう少女漫画。
もともとは見よう見まねでキャラを描いてみたのが始まりでさ。
内容は、個性的な学生のキャラ達がボランティア部を設立して、まちや学校のトラブルを勝手に解決したり、時には余計ややこしくしちゃったりするコメディー漫画」
「え、余計にややこしくなっちゃうの?」
「うん。でもむしろ、これどうなるんだろ、っていうようなひどい事件でも、最後にはボランティア部の皆が綺麗に解決してくれるから、安心して楽しめる。
少女漫画だけど男子のファンも多いから、結人くんも楽しく読めるかもしれない」
「へえ。今調べてみたけど、すごく面白そうだね」
僕が携帯で片手間に検索すると、ネットニュースの記事がヒットした。
『白百百高校凸凹カルテット』、通称シラコーは最近完結したとのこと。
ラストで続編を匂わせる終わり方をしたため、続きを期待するファン達の間で盛り上がっているらしい。
それから鈴夏は、スケッチを続けながらシラコーの良さを存分に話してくれた。
「――ふふふ、興味を持ってもらうことには成功したみたいだ」
鈴夏は鉛筆を置くと、おもむろに、つくったような低い声と口調でつぶやいた。
よくわからないけれどとても楽しそうで、僕は思わずクスリと笑った。
「なに今の」
「あはは、私シラコーのオタクだからネットでも結構語ってて。今のは結人くんに興味を持ってもらえた喜びが漏れただけ……っていうか、さっき、本当に興味持ってくれたの?」
「ああ。シラコーの話してる時の鈴夏さん、すごく生き生きしてたから。つい読んでみたくなった」
鈴夏さん。僕たちの中学は同じ名字が多かったせいか、単なるクラスメイト同士でも、そんな不思議な呼び方が普通だった。
入ったのは、ロビーにある休憩スペース。その中でも、二人一組の長机が並ぶ一角だった。
長机の前で、僕と鈴夏はそれぞれ椅子を引いて向かい合っていた。
「大丈夫、先生には後で、『できなかったから家で仕上げた』と言えば良いし。私も一緒に出しに行くから」
鈴夏の提案で、未完のサイコロは美術室からそれぞれ持ち帰ってきていた。先生には、月曜日に朝一で提出することにしたのだ。
彼女は「その前に準備運動」と言って、自前のスケッチブックに即興でイラストを描いてみせた。
「名前はどうしよう。――おふとんねこ、でいっか」
彼女が今さっき考えたというオリジナルキャラクターだった。布団と猫が合体したようなキャラで、顔文字のような目を閉じて幸せそうに眠る謎の小動物。
お店でファンシーグッズとして売ってる癒しキャラ達と並んでも、なんら遜色のないデザインだった。
「絵が好きなの?」
「うん。意外?」
答えながら、嬉々として描いたばかりのキャラクターを見せる彼女に僕はドキリとした。
「じゃあ、そろそろ。結人くん、こっち向いてて」
「うん」
鈴夏は右手に鉛筆、左手に自分のサイコロを持ち、スケッチを描きはじめる。
「あ、もし今の僕の顔、変になってたらごめんね」
「ううん、いつも通りだから大丈夫。私こそデフォルメして漫画のキャラ風にするからそのつもりで」
「いや、むしろ省略してくれたほうがいろいろと安心だよ。ところで、漫画っていうと、意識してる作品とかはあるの?」
「うん。『白百百《しらもも》高校《こうこう》凸凹《でこぼこ》カルテット』っていう少女漫画。
もともとは見よう見まねでキャラを描いてみたのが始まりでさ。
内容は、個性的な学生のキャラ達がボランティア部を設立して、まちや学校のトラブルを勝手に解決したり、時には余計ややこしくしちゃったりするコメディー漫画」
「え、余計にややこしくなっちゃうの?」
「うん。でもむしろ、これどうなるんだろ、っていうようなひどい事件でも、最後にはボランティア部の皆が綺麗に解決してくれるから、安心して楽しめる。
少女漫画だけど男子のファンも多いから、結人くんも楽しく読めるかもしれない」
「へえ。今調べてみたけど、すごく面白そうだね」
僕が携帯で片手間に検索すると、ネットニュースの記事がヒットした。
『白百百高校凸凹カルテット』、通称シラコーは最近完結したとのこと。
ラストで続編を匂わせる終わり方をしたため、続きを期待するファン達の間で盛り上がっているらしい。
それから鈴夏は、スケッチを続けながらシラコーの良さを存分に話してくれた。
「――ふふふ、興味を持ってもらうことには成功したみたいだ」
鈴夏は鉛筆を置くと、おもむろに、つくったような低い声と口調でつぶやいた。
よくわからないけれどとても楽しそうで、僕は思わずクスリと笑った。
「なに今の」
「あはは、私シラコーのオタクだからネットでも結構語ってて。今のは結人くんに興味を持ってもらえた喜びが漏れただけ……っていうか、さっき、本当に興味持ってくれたの?」
「ああ。シラコーの話してる時の鈴夏さん、すごく生き生きしてたから。つい読んでみたくなった」
鈴夏さん。僕たちの中学は同じ名字が多かったせいか、単なるクラスメイト同士でも、そんな不思議な呼び方が普通だった。