自分は光輝く彼女とは正反対の人間である気がしていた。
 男子の中心メンバーにいつのまにかカウントされていて、いつも誰かが話しかけてくれた。
 だが、僕は常に彼らの顔色をうかがっていた。
 カラオケに誘われて華やかに盛り上がるよりも、一人になれる時間のほうが好きだった。
 本来の僕は中心よりも端にいたい人間だった。
 クラスの良心のような扱いを受けていたが、本来の僕は、厭世的な皮肉屋で、臆病者。
 陰口を言われていやしないかといつも内心ではビクビクしていたし、そのうえ無意識のうちに人の悪いところばかりが目についてしまう人間だった。
 だから、この性格のことを誰かが「優しい」とかなんとか誤解して言うたびに、それは偽りなんだ、仮面なんだ、と叫びたい気持ちになった。
 いつかクラスの誰かに言われたこと。
『加澤くんは人の陰口を言わないところが良い』
違う。たしかに、話が陰口になるとできるだけ黙っていた。けど、それは僕が優しいのではなく、あとでしっぺ返しを食らうのが嫌だっただけだ。
 陰口はよくないから、という理由でそうしていたのではなく、恐れていただけ。
 だから、いつかそんな心のなかを見透かされるのではないかと想像して、恐ろしかった。失望されるのが怖かった。
 そんな偽りで塗装したような人格。
 だから、たとえ一瞬でもクラスの皆といるのが楽しくても、一人になった瞬間、その全てが虚しくなる。
 どうして、あの時あんなにはしゃいだのだろう。
 どうして、あの時、優しいねと言われたのだろう。
 どうして、あの時声をかけてくれたのだろう。
 どうして、もっと声をかけるべき人がいるのに、僕なのだろう。
 本当の自分は、ただ薄っぺらいだけなのに。偽りなのに。
 周りが僕だと思い込んでいる、そのほとんどが、空っぽなのに。
 いつか、見せかけの自分と醜悪な本心との調和が壊れて、心が狂ってしまうのではないかと、ずっと恐れてもいた。
 そんな僕に、鈴夏はいつかの部活動の時、「私、結人くんの実は腹黒い感じがとても気に入ってるんだ」と言ったことがある。
 その時側にいた彼女の友達の一人が、「アンタ加澤くんに失礼すぎでしょ。こんな聖人君子に何言ってんの」と心にもないことを言ってフォローしたが、僕は鈴夏の言葉になんだか不思議な安心感をおぼえていた。
 そのことは、鈴夏を強く意識するきっかけとなった。