「ねぇ――、そのぬいぐるみ」
僕たちに声をかけてきた人がいた。
「あ! もしかして稲田先生の――」孝慈が答える。
「ええ。いつも真一くんがお世話になってます」
その人は軽く頭を下げた。
「えーと、もしかして恋人っすか」
「……うん、一応そういうことになってます。あ、君たちは歌扇野高校の生徒だよね?」
それを聞いて孝慈は驚嘆したようだ。
目的の人が見つかり、僕は少しほっとした。恋人だというその人は、稲田先生と同じくらいの年齢に見える。
「私は恵実。漢字はこうよ」
空中に書いて説明してみせてから、恵実さんは言う。
「留学するんだ。ざっと三年半」
「三年半も……ですか?」
「うん。私はデザイナー目指しててね、向こうの学校に入り直す、特別なやつなんだ」
「そうだったんですか――それで、このぬいぐるみなんですけど……」
僕は祈りながら、恵実さんにぬいぐるみを渡した。
恵実さんは、
「まさか、真一くんが作ったの?」
と不思議そうにじっくり見ていたが、テディベアの顔を見るなり吹き出した。
「いや、そうとしか思えないけどさ。……この無器用さは、まさしく本人だよ――ありがと」
恵実さんは笑って受け取った。
彼女がぬいぐるみを大切そうに撫でるのを見届けて、僕は肩の力が抜けた。
恵実さんは言う。
「このぬいぐるみのことは、彼に三日前に話しただけだった。この際だしって思ってね」
「特別なもの、なんですか?」
「うん。このクマ、ふうちゃんって言うんだけど、ふうちゃんは元々、子供の頃に死んだ母が作ってくれたものでね。
でも、高校の時くらいに無くしちゃって、それで、実家をいくら探しても見つからなくて。それが留学前のちょっとした心残りだって話した」
僕たちに声をかけてきた人がいた。
「あ! もしかして稲田先生の――」孝慈が答える。
「ええ。いつも真一くんがお世話になってます」
その人は軽く頭を下げた。
「えーと、もしかして恋人っすか」
「……うん、一応そういうことになってます。あ、君たちは歌扇野高校の生徒だよね?」
それを聞いて孝慈は驚嘆したようだ。
目的の人が見つかり、僕は少しほっとした。恋人だというその人は、稲田先生と同じくらいの年齢に見える。
「私は恵実。漢字はこうよ」
空中に書いて説明してみせてから、恵実さんは言う。
「留学するんだ。ざっと三年半」
「三年半も……ですか?」
「うん。私はデザイナー目指しててね、向こうの学校に入り直す、特別なやつなんだ」
「そうだったんですか――それで、このぬいぐるみなんですけど……」
僕は祈りながら、恵実さんにぬいぐるみを渡した。
恵実さんは、
「まさか、真一くんが作ったの?」
と不思議そうにじっくり見ていたが、テディベアの顔を見るなり吹き出した。
「いや、そうとしか思えないけどさ。……この無器用さは、まさしく本人だよ――ありがと」
恵実さんは笑って受け取った。
彼女がぬいぐるみを大切そうに撫でるのを見届けて、僕は肩の力が抜けた。
恵実さんは言う。
「このぬいぐるみのことは、彼に三日前に話しただけだった。この際だしって思ってね」
「特別なもの、なんですか?」
「うん。このクマ、ふうちゃんって言うんだけど、ふうちゃんは元々、子供の頃に死んだ母が作ってくれたものでね。
でも、高校の時くらいに無くしちゃって、それで、実家をいくら探しても見つからなくて。それが留学前のちょっとした心残りだって話した」