佐藤先生は準備室の奥の、備品の棚を示した。それは中の見えるガラス棚だが、普段は鍵がかかっていて勝手に開けることはできない。
「三日前にも何か貸したんだ。この戸棚にある本が読みたかったらしくてさ」
「……もしかして、手芸の本でしたか?」
僕は確認する。
「よく知ってるな。稲田先生、表紙を見て『想像以上にファンシーですね……』と照れてたっけな」
と佐藤先生はあまり興味なさそうに言う。
「本のタイトルは?」
「いや、それは知らない。
私も正直、使わない棚に何の本があるのかなんて把握しきれてないから。
借りたいヤツなんてめったにいないし、それこそ三日前の稲田先生くらい。あ、ミシン片付けといて」
そう言うと佐藤先生は戻っていった。
僕は今までのやり取りから考えたことを三人に話す。
「稲田先生は多分、可愛いぬいぐるみを作ってるとこをあまり見られたくなかったのかな。態度から察するに、たぶん、図書館で借りたのも手芸の本」
「異論はないぜ」と孝慈が言う。
「先生、恥ずかしかったんでしょうか」
和歌子の言葉に、孝慈がぬいぐるみを示した。
「さぁな。とにかく、これ持ってって先生に聞いてみようぜ。どうして学校で、隠れてまでテディベア作る必要があったのか」
「いちど職員室に戻ってみよう」
僕はぬいぐるみをしまい、家庭科室を後にした。
再び職員室に向かうと、非常に慌ただしくなっていた。先生方は一様に会議室のほうに向かっていく。
稲田先生は既に会議室に行ったのか、もういない。代わりに佐藤先生がいて、シッシッと僕たちを追い払うように手を振ってきた。
「ほら、帰った帰った」
「へ?」僕はいまいち事情がつかめない。佐藤先生は続ける。
「運動部も、顧問の先生が今日は自主解散するようにって言ってるんだよ」
「え、それはどういう……」
「結人さん、大変です!」
話が飲み込めないでいると、和歌子が壁際のホワイトボードを指差した。
「【本日、生徒は十一時以降、学校には入れません】と書いてます。これ、マズいんじゃ――?」
「しまった」
こうして、僕たちは追い出されてしまった。
稲田先生に聞き込みもできず、仕方なく、玄関前でそれぞれの予想を話し合った。
「――それで、手芸で何かコンテストがあるとか」
「だれかにぬいぐるみをあげたいのかも」
「誰にあげるんだろう。友達、親戚の子供、恋人がいれば恋人」
どれもありそうだが、確証もなく、一日が終わった。
未来写真の日付は明日。こうなったら、朝一番で空港に行って、真相は直接確かめるしか無いようだ。
「三日前にも何か貸したんだ。この戸棚にある本が読みたかったらしくてさ」
「……もしかして、手芸の本でしたか?」
僕は確認する。
「よく知ってるな。稲田先生、表紙を見て『想像以上にファンシーですね……』と照れてたっけな」
と佐藤先生はあまり興味なさそうに言う。
「本のタイトルは?」
「いや、それは知らない。
私も正直、使わない棚に何の本があるのかなんて把握しきれてないから。
借りたいヤツなんてめったにいないし、それこそ三日前の稲田先生くらい。あ、ミシン片付けといて」
そう言うと佐藤先生は戻っていった。
僕は今までのやり取りから考えたことを三人に話す。
「稲田先生は多分、可愛いぬいぐるみを作ってるとこをあまり見られたくなかったのかな。態度から察するに、たぶん、図書館で借りたのも手芸の本」
「異論はないぜ」と孝慈が言う。
「先生、恥ずかしかったんでしょうか」
和歌子の言葉に、孝慈がぬいぐるみを示した。
「さぁな。とにかく、これ持ってって先生に聞いてみようぜ。どうして学校で、隠れてまでテディベア作る必要があったのか」
「いちど職員室に戻ってみよう」
僕はぬいぐるみをしまい、家庭科室を後にした。
再び職員室に向かうと、非常に慌ただしくなっていた。先生方は一様に会議室のほうに向かっていく。
稲田先生は既に会議室に行ったのか、もういない。代わりに佐藤先生がいて、シッシッと僕たちを追い払うように手を振ってきた。
「ほら、帰った帰った」
「へ?」僕はいまいち事情がつかめない。佐藤先生は続ける。
「運動部も、顧問の先生が今日は自主解散するようにって言ってるんだよ」
「え、それはどういう……」
「結人さん、大変です!」
話が飲み込めないでいると、和歌子が壁際のホワイトボードを指差した。
「【本日、生徒は十一時以降、学校には入れません】と書いてます。これ、マズいんじゃ――?」
「しまった」
こうして、僕たちは追い出されてしまった。
稲田先生に聞き込みもできず、仕方なく、玄関前でそれぞれの予想を話し合った。
「――それで、手芸で何かコンテストがあるとか」
「だれかにぬいぐるみをあげたいのかも」
「誰にあげるんだろう。友達、親戚の子供、恋人がいれば恋人」
どれもありそうだが、確証もなく、一日が終わった。
未来写真の日付は明日。こうなったら、朝一番で空港に行って、真相は直接確かめるしか無いようだ。