松野が言う場所を見ると、【不要な布切れはここに入れてください】とペンで書かれた段ボールがあって、箱の上から何かがはみ出している。
 見ると、中には小さなぬいぐるみが入っていた。
「さっき先生が出てく時に、小脇に持ってた布と色が似てる」松野が言った。
「ああ、茶色い布か! たしかに持ってたし、絶対そうだよな」孝慈が頷く。
 それから松野が、箱の中に捨てられたぬいぐるみを拾い上げた。
 ぽっこりしたお腹と二つのまるい耳。よくあるテディベアだということは分かったのだが、問題はその珍奇な見た目だった。
 松野が驚いてぬいぐるみをひっくり返す。
「こ、これは……その……片目が飛び出てるんだけど……」
「一風変わったぬいぐるみ、でしょうか……ホラー系?」
「違うと思うぞ。それに、どうして手の長さが左右で二倍近く違うんだ?」
 孝慈がため息をついた。不要な布入れにあったことから、失敗作だとは思うが。
「初めて作ったのかな」と松野がつぶやく。
「まぁ、それなら仕方ないか……にしても先生、かなり――」
「かなり不器用だな。まぁ、手芸はちょっと意外だったけど……そうだよな」
 孝慈が再びため息をつく。体育会系の見た目だけど実は手先が器用。そんな意外性を勝手に想像してた、ということらしい。
「この箱に入ってるってことは、失敗して捨てちゃったのかな」
「……なんだか、もったいないよね」松野が言った。
「あ、どした、お前ら」
 ぬいぐるみを見ていると、後ろで女性の声がした。
 振り向くと、家庭科の佐藤先生が入口に立っていた。
 僕は説明する。
「あ、ちょっと稲田先生を探してたんです。さっきまで何かやってたみたいですけど」
「ああ、準備室なら私が貸したよ」
 佐藤先生は一枚の紙をこちらに見せた。部屋の利用者が書く紙らしく、一番上の欄に稲田真一と走り書きされている。
「先生がここを借りた理由はわかります?」
「知らない。特に聞かなかったから。あ、そういえば」