松野へのズバズバした分析に、僕は自分のことでも無いのに恥ずかしくなった。
 そのようすを見て、孝慈が笑う。
「お、なんだ加澤お前、ひょっとして恋バナは苦手か」
「…………」
「ああ、もしかして恋バナって言葉を知らない? いいぜ教えてやるよ。――恋バナってのはな、『恋のバナナ』って意味なんだぜ!」
「そんなん小学生でもダマされないわ!」
「ははは。――じゃあさ、加澤」
 孝慈は急に真面目になって向き直る。持っていた分厚い本を本棚に戻すと言った。
「だったら何か、心当たりは無いのかよ? お前が忘れてるだけで、子供のころに一度会ってたとか」
「子供のころ? 心当たりなんて無いよ。そんなに強い出会いだったのなら、僕も覚えてるはずだし」
「お前にとっては小さなことでも、向こうにとっては強烈なファーストインプレッションがあったのかもしれないぜ?
 次に松野と会うまでに、よーく思い出しておいた方が良いぞ。
 万が一、忘れられてたなんて、きっとショック受けるだろうから」
 さきほどから松野を気遣うような言葉に、僕はふと疑問を持った。
「……どうしてコージは、そんなに松野を気にかけるの?」
 孝慈は他の本も正しい場所に戻すと、「そりゃあもちろん」と前置きしてから続けた。
「なんか放っておけないからさ、あいつ」