「松野は帰ったし、和歌子もいない――よっしゃ、ついにこのチャンスが来たか」
 松野が店の手伝いに向かっていなくなった後、孝慈はテーブルに身を乗り出して聞いてきた。
「加澤」
 何を聞かれるか、少なくとも彼女のことであるのは明白だった。
「――お前の、松野との関係は?」
 そうら来た。
「毎日本屋で会うほどにいつのまにか仲良くなってたなんて、お前らもなかなか片隅に置けないよ」
「違うからな!」
 僕は即座に否定する。
「えー、なんでよ」
 孝慈はテーブルをコツコツ叩きながら問い返してきた。
「だってお前ら、ケーテで向かい合ってた時すげえ仲よさげに見えたよ?
 雑談が超盛り上がってた。ありゃ絶対両想いだね」
「いいや、それは言い過ぎだと思う――和歌子ちゃんがいなかったら会話も止まってただろうし。
……というか勝手に決めつけないでよ」
「根拠は?」
「……だって松野はまだ、僕に慣れてないみたいっていうか……その証拠に今だって、バイトのことで早く帰っちゃったし」
「うーん、俺、それは違うと思うな」
 孝慈は腕を組んで言う。
「バイトがあるんなら、図書館で手伝いなんかしないでさっさと帰ってるはずなんだよ。
 なのに松野は時間ギリギリまで俺たちといた。
 ウワサが苦手なあいつが、わざわざバスケ部の見学までして」
孝慈は「クラス会」とポツリとつぶやく。
「『部の見学してた女子、だれ?』ってバスケ部でちょっとしたウワサになると思うよ。
 なのにあいつ、クラス会の時も自分だけバイトで行けなくて、もし変なウワサが立ったら、って気にしてたんだぜ。
 それくらい自分のウワサを気にしてるのに、
『加澤が来るまでバスケ部の見学ってことで見ててくれ』
だなんて俺の提案、そんな目立つことをわざわざ了承して――おかしいだろ?」
「単に、バイトで都合が悪いってことを、言い出しづらかったんじゃないの?」