「いや、何だか、いま僕たちに声をかけられると都合が悪いようにも見えた」
 どちらにせよ、今日は稲田先生に聞き込みはできない。
 仕方ない。明日にでも職員室を訪ねるか。一応夏休みだから、いるかどうか分からないが。
「そうだ」
 ふと思いつき、和歌子に訊ねてみる。
「今から先生の後を追いかけることはできる? 行動が分かれば何かヒントになるかも」
 和歌子はうなずく。
「たしかに、レーダーのようにして不幸の反応をたどる、つまり先生を追うことはできます。
 ただ、歌扇野市内から出てしまったらわたしの行動限界の外なので、それ以上は追えません。一応、やってみますね」
 和歌子は図書館から駆け出していった。
「……あ、いけない、わたし、これからバイトあるんだった」
三人だけになった後、壁の時計を見て松野が言った。
「ごめんね」
 帰り支度をして通学鞄を抱えた松野に、孝慈が手を振る。
「じゃあな、松野」
「うん、また明日」
 松野が孝慈にちいさく手を振り返すのを、僕は他人事とは違った気持ちで見ていた。