体育教師だけあって、いつもスポーティーな服装をしているイメージだが、この日に限ってスーツを着ているということは、そういう類いの不幸かもしれない。
 ただ、写真の中のうなだれて壁に手を当てている先生には、もっと別の何か、耐え難い後悔があるようにも見えた。僕は言う。
「その線で考えるなら、何か、もっと個人的な、だけど外せない大事な用事があった、とか」
「それは何ですか?」
「うーん、今のところは浮かばないや……そうだ、稲田先生本人に聞いて情報を引き出せないかな?」
 僕はさっき時計台で書いたメモを確認する。
「『未来写真のことや、写真で見た光景のことを自分たち四人以外に話さなければOK』」
 未来写真は和歌子が作ったもので、僕たち以外には見えないからいい。
 未来写真というものの存在を話さず、明後日の用事についてそれとなく尋ねてみれば問題ない。
「あ、帰っちゃう」
 松野の声に顔を上げると、先生が入口のカウンターにやってきて、本を借りる手続きをしたところだった。
 孝慈が急いで声をかける。
「何借りたんスか?」
「げ、お前ら」
「先生、聞きたいことがあるんですけど」
 僕が言うと、先生は借りた本をトートバッグに押し込んで、こちらに背を向けた。そしてそのままスタスタと歩き出す。
「え、ちょっと!?」
「急いでるから、明日にしてくれ!」
「明日夏休みっスよ? それより先生、明後日って――」
「じゃあな」
 先生は孝慈の質問には耳も貸さず、そのまま逃げるように図書館を出た。
 外に車を停めていたらしく、先生はそのまま乗用車に乗り込んで走り去ってしまった。

 孝慈は首をひねる。

「どうしたんだ? そうとう急いでたみたいだけど」