僕は和歌子に写真を渡される。
 まず目に飛び込んで来たのは、一面ガラス張りの壁の外に、滑走路を見下ろす背景。
 それを見て、写真の場所はどこかの空港らしいことが一目で分かった。
 だが、殺風景。
 その写真は、稲田先生が空港でぽつんと立ち尽くしているものだった。
 彼は珍しくスーツを着て、手を壁に当てて、がっくりうなだれている。
 そしてその額には、うっすら汗が浮かんでいた。
 写真をぱっと見て分かるのはそれだけだった。
 もっと手前にはロビーや他の利用客等が写っているはずなのだけど、写真は稲田先生を中心にして彼とガラスの壁、そして滑走路のみを寂しく捉えており、よく見えない。
 そして写真の右下に刻まれた日付と時間を見る。明後日の、朝の七時四十三分。
 僕たちは顔を見合わせる。時刻にではなく、写真自体の情報の少なさに。
「……まず、この写真の場所」
 僕はとりあえず確認をする。
「歌扇野空港だ。このロビーは親戚の帰省とかの時に来るから、よく知ってる」
「俺も。ニュースとかでもたまに映るよな」
 それから話題は、先生がどうして二日後の朝に空港にいるのかに変わった。写真の中の先生について、気づいたことを言い合う。
「じゃあ、写っている先生を見ていこう。気になったことは?」
「顔に汗をかいてるな。あとは……背中に綿ボコリ?」孝慈が言う。
「……スーツに傷が付いてる。袖のところ」松野が気づいて言う。
「ああ、本当ですね。少し白くなってます」
 松野と孝慈が気づいた通り、未来写真の稲田先生のスーツには傷やホコリがあった。
「写真を見るに、先生はスゲー急いでた。それも、スーツにホコリや傷がついても気にしないほど慌ててたってことだな」
「なるほど。それで、この場所は空港。なんとなく見えてきた。先生は飛行機の時刻に間に合いたかったのか」
「ああ。自分が乗りたかったのか、あるいは、誰かを見送りたかったのか」
「うーん、出張に間にあわなかった、でしょうか?」和歌子が首をかしげる。