和歌子は首をかしげると、図書館の入り口のほうに駆け出した。
 先に出入口に着いた和歌子は驚いたように言った。
「えっと――、なんだか皆さんも知っている人のようです」
 和歌子の前から歩いてくるその人物は、新しめのジャージを来ていた。見覚えのある黄色いラインの入ったジャージ。
「お前達、奇遇だな」
 僕たちに声をかけたのは、1Aのクラス担任、稲田先生だった。
「やっぱり――。不幸が訪れるのは先生のようです」和歌子は言った。
「え、稲田先生が!?」
「人の顔をみるなりそんなに驚いて……どうしたんだ?」先生が怪訝そうな顔をする。
「いっ、いえ、何でもないです」僕は口をつぐむ。
 その間に、和歌子は先生の後ろに回り込んで、指をカメラのかたちに構える。
 そして、宙に現れた写真を引き寄せて掴んだ。これで未来写真は撮れたらしい。
 それにしても、稲田先生だったなんて。和歌子が撮った写真の内容が気になる。
「早速グループワークか」
 後ろの座敷わらしのことなど知る由も無く、先生は僕たちに言う。
「先生こそ図書館に何の用事っすか」孝慈が聞く。
「あ、ああ。ちょっと、授業で参考にするつもりの本があってな。……じゃ、良い夏休みを」
 歯切れ悪く言い残すと、稲田先生は足早に図書館の二階へと階段を登っていった。
 先生が視界から消えたのを確認して、僕は和歌子に目配せした。
 和歌子は頷くと、今撮ったばかりの写真を取り出す。
 孝慈と松野が先に写真を覗きこんだが、二人はすぐに困惑の表情になった。
「……これだけ?」
 松野が和歌子に確認する。孝慈も眉根を寄せている。
「結人さん、これ――」