孝慈はうなった。
 松野は手すりから街をじっと見て口を開いた。
「……聞き込み」
「え?」
「……被写体に写真を見せて、直接心当たりを聞いたらいけないの?」
 なるほど、本人に直接聞ければ手っ取り早いかもしれない。しかし和歌子は首を振る。
「ダメですね。その方法で不幸を解決してしまうと、クローバーが集まらなくなります」
「どうして?」
「ズルだからです」
 単純明快な回答に、孝慈が苦笑する。
「たしかに、それはズルいよな」
「葉っぱ集めというのは儀式みたいなもので、きちんとした手順を踏む必要があります。
 わたしは最終的に神様になる必要があると、そう言いましたよね。
 神様なるものを名乗るからには、それに見あった手続きが必要なのです」
 和歌子は付け加える。
「ただし、未来写真のことや、写真に写っていた未来のことを本人やわたし達以外の人に話さなければOKなので、情報を引き出すための聞き込みなら大丈夫ですよ。
 未来写真は分霊と同様、皆さん以外には見えませんし。あまり難しく考えないでくださいね」
「わかった、一応気を付けるよ」僕は今聞いたルールをメモ帳に書き留める。
「説明はこんなものですね。わたしもそろそろ行動開始です」
 そう言うと、和歌子はおもむろに横になった。
 その寝そべった体が目を閉じると、その体から、すうっと和歌子の分霊が抜け出してきた。
「お待たせしました。これで外に出ることができます」
「ふたりいるが」日陰で眠る和歌子と目の前の分霊の彼女とを見比べて、孝慈が首をかしげる。
「この分霊というのは、わたしの体から切り離された意識みたいなものです。
 そうして意識を切り離した上で、本体を時計台に残すことで、その不幸探知アンテナを活用しつつ、幸運のチカラを持つ結人さんと行動できます。
 抱き付いた相手に干渉できる以外は、わたしの意識はあくまで実体の無い幻影ですから」

と和歌子が答えた。

 孝慈はふぁあ、と大きく背伸びをする。

「なるほど。じゃ、さっそく調査開始と行きますか。幸運集めのフォークローバー、縮めてフォークローバーズでね」