ぱっと見た限り、今の和歌子は昨日と特に変わったところは無い。
 昨日の分霊との違いは、実体があるかどうか。僕たち以外に見えないのは同じだが、本体ならモノに触れることができる。
 そんなことを説明してから、和歌子は本題に入る。
「今のわたしは、不幸が訪れそうな人をこの時計台から見つけられる、アンテナやレーダーのようなものです。
 そして、結人さんがわたしの分霊のそばで不幸を解決することで、この葉っぱが集まります。おふたりにもお話した通りです」
 和歌子は再び手すりのほうに歩きながら言う。
「さて、わたしの予知能力にはいくつか制約があります」
「制約?」
「はい。まずわたしは、学校に住む座敷わらしという存在のため、学校にまつわる幸運にのみ関わっています。
 そのため、予知能力が使えるのは先生や生徒、卒業生といった、歌扇野高校の関係者に対してのみです」
 逆に、彼女が消えていなくなった時、不幸が彼らに降りかかってしまうのか。僕たちも含めて。
「それから、わたしが見ることのできる不幸の瞬間は、その一瞬を捉えた静止画としてしか予知できないのです」
 和歌子はこんな感じです、と孝慈に向けて指をカメラのかたちに構える。
「そうして不幸な人があれば、その人の不幸の瞬間を写真で撮ることができます。昨日の瑞夏さんの写真のようにね」
「ふむ、たった一枚の静止画でしか見れないってなると……」孝慈が考え込む。
「ええ。情報が限られるので、何が被写体に起こる未来の不幸で、そして何がその原因になるのかを予想していく必要があるかもしれません」
 和歌子はうなずいた。昨日はたまたま分かりやすい状況・場所だから良かったが、いつもそういうわけにもいかないだろう。