クローバーが君の夏を結ぶから

 孝慈の怪我については、クラス内外でも様々な憶測が飛び交い、真実があやふやなままだった。
 彼は高校生になった今、何の部にも所属していない。
 相坂さんはだいたいぼくが聞いたのと同じような内容の話を終えると、話題を変えた。
「ところで加澤くんさ、中学のときは何部だったの?」
 中学のときの部活。その話を突然振られて、ぼくの声はうわずった。
「……陸上部だったよ」
「へぇ、陸上かあ。なんだか意外だなぁ。 あれ?」
 相坂さんは思い当たることがあったのか、言った。
「加澤くん、念《ねん》ノ丘《おか》中出身だよね。で、そこの陸上部、と。
 てことは、あの事故のせいで大変だったんじゃない?  ほら、短距離の競技中に女の子が倒れて死んじゃったやつ」
「……うん」
「やっぱり、その後色々と大変だったんでしょ」
 ぼくは言葉を選ぶようにして答えた。
「……まあ、ね。けど、僕は途中で辞めたから、そこまで踏み込んだことは知らない」
 競技中に意識不明となり、倒れた女子選手。
 僕は彼女が倒れるようすを間近で目撃した。
 駆け寄るスタッフ、彼女を運ぶ担架、そして救急車の音。
 会場のあのざわめきが今でも耳の奥にこびりついていた。
「加澤くん、部活は――」
「……その年――二年の終わりに辞めたよ。理由は、高校受験に集中するため」
 嘘だった。
「ふーん、そうなんだ」
 相坂さんはそれ以上追求しない。彼女は思い出したように言った。
「あっ、いけない! あたしこれから部活あるんだった。ごめんね、急に呼び止めて」
「あ、うん」
「コージをよろしくね!」
 相坂さんは言い残すと、慌ただしく去っていった。
 部活、か。
 そういえば、僕も孝慈も、中学で部を辞めて、高校でも部に入っていないんだな。