「残り三週間。この葉っぱを集めるのに、協力してほしいんです」
 和歌子はこの通りっ、とさらに深々とこうべを垂れた。
 参ったな。こういうのには弱い。
 僕は息をすうっと吸ってから、答える。
「……僕も和歌子ちゃんに協力するよ」
「――ありがとうございます、結人さん」
と、和歌子はもういちどおじぎした。
「松野を助けてもらった恩もあるからね」
 僕がそう言って松野を見ると、彼女はちいさく頭を下げていた。
「松野はどうする?」
「……うん、良いよ」
 協力してくれるみたいだ。
「決まりですね! 結人さん、瑞夏さん、わたし、……と厨房にいる孝慈さん」
 それから思い出したように言う。
「言い忘れてましたが、わたしの分霊が活動できるのは日没まででした」
 そう言うと、唐突に和歌子の体に変化が現れた。
「……あ、ちょっと!?」
 僕は驚く。彼女の全身は、まるで幽霊のように半透明になっていた。
「わたしは屋上で待ってます。また明日、学校でお会いしましょう!」
 言葉の端を言い終えると、そのまま和歌子のからだはしだいに薄れていき、ついには完全に見えなくなった。
「消えちゃったよ」
 席には僕と松野だけが残される。
「……消えちゃったね」
 ふたり残されて、状況はマトイ書店の時と一緒になった。
 会計を済ませて、僕は松野と店の外に出る。
「……じゃあ、わたしもここで」
 会話という会話がないまま、松野はそう言って、僕の帰り道とは反対側のほうを示した。
「わたしの家、こっちだから」
「そうなんだ、じゃあね」
「…………」
 僕が片手を上げると、松野は胸の前で小さく手を振りかえした。
 彼女が角の向こうに消えていくのを見てから、僕も自分の帰路を急ぐ。
 松野があのとき何を言いたかったのか、結局聞きそびれてしまった。

 家への道すがら、夜風に当たりながら考えていた。
 なぜ、自分は和歌子に協力するなんて、快諾したのか。
 自分が唯一彼女の力になれるという、責任感から? それもあるし、和歌子にも言った通り、彼女には松野を助けてもらった恩がある。
――それに……。
 さっき、同じように快諾した孝慈が言ったこと。
『面白そうなメンバーじゃん』
『こんなに楽しそうな夏休みが目の前に転がってるんだぜ?』
 それらの言葉を、声に出してつぶやいてみる。
「……面白そうなメンバー、楽しそうな夏休み、か」
 つぶやくと、抑えきれない期待感と、理由の分からない切なさとが同時にこみ上げてきた。
――『思い出』なんて要らないけど、少しだけ。
 今はほんの少しだけ、この『幸運』に身をゆだねてみても、良いかもしれない。
 そんな不思議な感情が、帰路につく僕の胸でチリチリと光っていた。