窓の外を見ると、街はもうすっかり暗くなっていた。
「……アイス溶けちゃった」
 松野はチョコアイスのコップを残念そうに見つめると、携帯で時間を確認してから言った。
「……わたしも帰らないと。レジの手伝いの帰りに寄り道してた、なんて家族には言いづらいし」
「手伝い?」
「……うん。マトイ書店は自分の家だから。お父さんが店長なの」
「そうだったんだ」
 それであの本屋で松野がよくバイトしていたのか。薄々勘づいてはいたが、放課後すぐに帰ってしまうのも。
「結人さん、葉っぱ集めのこと……どうでしょうか」
 会話が終わるのを待って和歌子が言う。
「髪飾りの葉が四枚集まることで、わたしは神格化される。
 そのことが十年ほど前、天から降ってきたように理解できました。
 その頃にはもう建て替えが近づいていて、結人さんのような幸運のチカラの持ち主を見つけるには時間が足りませんでした」
「髪飾りの意味が突然わかったの?」
「いえ、どちらかと言えば、座敷わらしとして時を経て、妖怪としてのちからが増すごとに、自然にそういう知識を理解していた感じです」
「自然にって、なんだか羨ましいね。その――簡単に答えが見つかってさ」
 僕がぽつりと言うと、和歌子は表情を曇らせ、真剣にことばを返した。
「今のわたしは校舎という宿主に寄生するだけの存在。運命は、常に宿主に握られています。
 だから自分の進むべき道が分かっていても、結人さんを見つけない限り、わたしは無力なままでした」
「…………」
「どうしても、この葉っぱがあと三枚必要です。妖怪のままでは、わたしは消え、学校じゅうに不幸を与えてしまう。だから、結人さん――」
 和歌子は頭を下げた。