「根掘り葉掘り聞かせてもらおうじゃないの」
孝慈は意味ありげなウインクを寄越した。
「僕は無実だってば……ん?」
和歌子のことをどう説明しようかと迷っていると、孝慈の左手の上で動く物体に気づく。
 見ると、彼の手のひらで二十枚ほど重なった皿がうねうねと揺れていた。僕はハッとして指摘する。
「コージ、食器食器!」
「おっと!?」
 手に持った皿の山が崩れそうになっていることに、孝慈がようやく気づく。
 彼の性格からして、慣れないウエイターの仕事だというのに調子にのって、一度に何枚も重ねて運んでいたのだろう。
 孝慈が必死にバランスを取ろうとするが、皿の一枚がむなしく滑り落ちる。
「危ないです!」
 とっさに叫んだのは和歌子だった。
 和歌子は飛び込んで皿を受け止めようとする。
 ゴトン、と心臓に響く音が鳴った。皿は彼女の腕をすりぬけて、しかし落ちた場所が良かったのか、テーブルの上に無事に着地した。
 しかし……
「え、キミ、誰?」
 目の前にある和歌子の頭を、孝慈が驚いたように見つめている。
 和歌子を見ると、テーブルの上に上半身を浮かせたまま、孝慈の体に両腕でしっかりとしがみついていた。
「へっ、へぇえええ――!? し、しまったです!」
 出会ってから一番の狼狽を見せながら、和歌子は慌てて腕を離した。
――和歌子は抱きついた相手には見えるようになる。
 どうやら皿を受け止めようとした拍子に、誤って孝慈に抱きついてしまったようだ。