和歌子は僕の疑問を予想していたように頷いた。
「そこで、わたしは自分の意識のみを『分霊』として切り離すことで、こうして分霊だけが外に出ることができます。
 感覚としては、幽体離脱に近いでしょうね」
 つまり、今ここに座って姿を見せている和歌子は、本体ではないのか。
「分霊か……そういうふうに言われると、なんだか神社の神様みたいだね。同じ神様が本尊とは別の場所に祀られて一つじゃ無くなる、みたいな」
 神様、という言葉を聞いて、和歌子は満足そうににこりとした。
「はい。それこそ、わたしが目指しているものです」
「え?」
 首をかしげた僕を見て、和歌子は自分の頭の髪飾りに手をやった。いまは薄緑の葉が一つだけついた、一枚葉のクローバー。
「この葉っぱを四枚集めると、わたしは神様になります」
「神様て……」
 急に目の前の女の子が神々しく見えてきて、僕は思わず姿勢を正す。
 松野も目をまるくしている。
「ああ、いえ、すみません、そんな仰々しいものでも無いんです。ただ、表向きは座敷わらしのままに、存在が神格化されるというだけです」
「神格化とは、これまた凄そうだけど」
「いま申し上げた通り、わたしには『本体が校舎から離れてはいけない』という束縛があります。
 ですが、神格化されることで、わたしの本体は消えずに済むうえに、旧校舎の外に移動できるようになる。制限から自由になれるんです。
 変な言い方になりますが、座敷わらしのデメリットである『棲み着いていた家を去るときに、その家に大きな不幸を残す』なしに、『その家の守り神として幸運を与える』というメリットのみを受け継ぐことができるんです」
「そうすれば、君が旧校舎の取り壊しで消えることは無くなるし、今後工事があっても『座敷わらしが家を離れることで起こる不幸』が起きなくて済むようになるのか」