「――幸運のチカラ、ねぇ……」
 僕はクリームソーダのアイスにストローを突き立てると、正面に座る和歌子を見る。
「僕が偶然にもそのチカラを持っていた、と?」
「ええ。それがまさに結人さんでした。制約は多々ありますが、わたしと協力することで、学校の関係者に訪れる未来の不幸を知ることができる。それだけのものですが」
「さっき松野を助けたのも、その幸運のチカラで……いや、それは一旦置いといて、まずは――」
 幸運のチカラを求めていた理由を、和歌子は話し始めた。
「単刀直入に言います。このままでは、この歌扇野高校に在籍する生徒や先生、そして過去の卒業生たち。それら関係者全員に大きな不幸が降りかかります」
「大きな不幸って? どうしてそんなことが……?」
「まず、わたし、このままじゃ消えちゃうみたいです」
「消える?」
「はい。この学校ができて間もないころ、『夕方の体育館には座敷わらしが現れる』という怪談話が広まって、その結果わたしが生まれました。
 有り体に言えば、わたしは旧校舎の噂から生まれた運命共同体。
 旧校舎という宿主ありきという点で、普通の座敷わらしとは異なります。
……寄生虫、のようなものでしょうか、わたしは宿主なしには存在できません」
「――つまり、旧校舎が解体されて無くなったら、一蓮托生の君も消えてしまう、と?」
「その通りです。
 そして座敷わらしは、『棲み着いていた家を離れる時に、その家に不幸を残す』んです。
 自分の意思とは関係なしにね。
 わたしが消えてしまえば、それまで棲み着いていた旧校舎、つまり家から去ることになる。
 だから、不幸が降りかかることになるのは、それまで旧校舎を使っていた先生や生徒達なんです」
 僕は思わずごくりと唾をのむ。和歌子は続ける。
「わたしは他の座敷わらしを知らないので、実際のところはわかりませんが、去った家の一族が病気や食中毒でほとんど全滅したという話を知っています……。
 残念なことに、わたしにもそれだけのチカラがあるようです。不幸を予知できるこの能力の、代償なのかもしれません」
 一家全滅。そんなことが学校の単位で起きたら……。
 僕はふと思い付いて言う。
「今の校舎には移動できないの? 同じ歌扇野高校という場所なんだし」
「ダメですね」
と和歌子は首を振る。
「どちらにせよ、旧校舎を移るときに不幸が起きてしまいます。良いですか? わたしは『旧校舎を離れる時に、大きな不幸を残す』んです。つまり……」
「なるほど……『旧校舎を離れる』って、『棲み着いてた場所を去る』って意味だけじゃなくて、『旧校舎から一歩出る』、つまり、ちょっと敷地の外に出ることもできないんだね。
 そんなに厳しいルールなのか……」
 そこまで言って、僕は地味に重大なことに気づく。
「ん、じゃあ今ここにいる君は何者?」