夏祭りに戻る道の途中、堤防の小道の横にシロツメクサが群生しているのを見つけた。
 僕はその小さな群れの中に、ほんの一瞬、視線を向けた。
 幸運のクローバーは、僕たちの胸の中にもある。星野鈴夏が結んでくれた、僕ら四人の関係性として。
 僕は忘れない。あの思い出を。そして、今年の夏の思い出も。
 堤防の真ん中で、孝慈が言う。
「俺、屋台まわってくるよ。射的の景品とか、無くなってたらやだし」
 和歌子が頷く。
「わたしもやってみたいこと、たくさんあるんです。射的もですし、金魚すくいに型抜きも。――そうと決まれば、早く行きましょう。わたし、近道知ってるんです!」
「加澤たちはどうする?」
「僕は……後で合流するよ」
「…………」僕の隣で、松野が恥ずかしそうにコクンと頷く。
 孝慈は、からかってくるのかと思いきや、ほんとうに爽やかな笑顔で、手を上げて応じた。
「そうか。じゃあ、また後でな!」
「また会いましょう!」
 二人は僕たちに手を振りながら、会場への道に戻っていった。
 川辺の堤防の道には、松野と僕の二人だけが残された。
 僕は松野と、祭り会場への道を行く。
 ふたりきりで、河原の上の、ちいさな道を歩いた。
 やがて、川の向こうの夜空がひかりに染まる。
 松野は立ち止まり、向こう側の空を見上げる。
「…………」
 河川敷で、松野とふたり。
 どちらからともなく、切り出した。
「――約束、したよね」
「――うん」
 僕は、次々打ち上がる花火をじっと見つめる松野の横顔に、小さな決意と一緒に語りかける。
「――だから、あとは、僕が選ぶだけみたいだ」
 その横顔に、告げる。
「僕は――」
 言の葉に乗せて、いま、選択する。
 松野瑞夏と歩む、未来を。そして、今現在という、この瞬間も。
 現在という、かけがえのない一瞬の閃光。その輝きを全力で生きること、それもひとつの思い出となるから。

 暗闇にひかりを灯して、最後の花火が、いま打ち上がる。
 終わりではなく、はじまりを告げる、希望のひかりが。


(了)