三人と共に移動したのは、歌扇野公園を登った場所にある高台だ。
 下の祭りの賑わいに覆い隠されて、自分たちの他には誰もいない場所。
 ここに二年前、僕と鈴夏がいた。
 今、この思い出の場所で、最後の秘密を話そう。
「コージ、きみは誕生日を隠してたらしいね。2月が誕生日だって、嘘をついてたとか。
 歌高にも瀬奈中での知り合いや松野がいるから、仕方なく、中学時代に引き続いて嘘をついてた」
 僕の言葉に、孝慈は落ち着いた口調で答えた。
「――何を言い出すかと思えば、そんなことか。俺が誕生日偽って、何の得があるわけ? 仮にそうだったとして、証拠はあんの?」
「それは……」
 推理はあるけど、証拠はない。僕は言葉に詰まる。
 成り行きを、松野と和歌子が見守っている。
 沈黙が訪れようとする。僕は深呼吸をして、再び口を開きかける。
「コージ、きみは中学時代――、」
 その時、普段はマナーモードにしている携帯の、聞き慣れない着信音が、僕のポケットの中から鳴り響いた。
 稲田先生からの電話だった。
「――もしもし?」僕は飛び上がるように応答した。
「ああ、加澤。昨日の話なんだけど、もう孝慈の誕生日は聞けたか?」
「……いいえ」
 答えると、電話口の奥で先生がため息をつく。
「今どきこういう個人情報は誕生日すら厳しいから、いくら加澤の頼みとは言え、目的の分からない電話だけで教えるわけにはいかない」
 やっぱり、ダメか……
 しかし、先生はそのまま続けた。
「答えるかどうか迷ったが、誕生日ってのはクラスメイトには周知の事実だろうから、教えられると思う。あ、これはあくまでも俺の裁量だからな。おおかた、グループワークで何かあったんだろ」
「…………」
「これを答えれば小野寺との何かが良くなる、それで昨日、加澤は俺に電話をくれた」
 稲田先生は一呼吸置いてから一気に言う。
「これは特別だぞ。――小野寺は、六月二十二日生まれだよ」
「……! ありがとうございます」
 僕は先生との通話を終え、孝慈に向き直る。
「鈴夏の誕生日は六月二十二日なんだ。そして、コージのほんとうの誕生日も、六月二十二日」
「…………」
 これが、松野の未来写真を解決するための、鍵だ。
 孝慈と鈴夏との関係性に、思い至っているかどうか。