「校舎に?」
「ええ。棲むというよりは、存在しているといったほうが正しいでしょうか。
 今おふたりの前に姿を現しているこのからだは、言うなれば実体の無い『分霊』のようなもの。
 守り神と言えば大げさですが、わたしの本体はあの旧校舎の中に棲み着いていて、生徒の皆さんをかげから見守る存在でした」
「え、でも旧校舎って、たしか……」
 旧校舎という言葉で思い出し、僕は松野と顔を見合わせる。和歌子は、ええ、わかってますと頷いた。
「その通り。歌高の旧校舎は、今年の夏休みに取り壊されます。予定では、夏祭りの日の、ちょうど日没の時間に解体が始まるみたいです」
「取り壊しのことと、君が髪飾りの葉っぱを集める『目的』とは、何か関係があるのかな?」
「大いにあります。その前に、まずは結人さん達にご迷惑をおかけしたことを心からお詫びします」
 和歌子は深く頭を下げた。
「……そして、とても言いにくいんですけど、これからも迷惑をかけることになりそうです」
「……それは、どういうこと?」
「――順を追ってお話ししますね。わたしがどういう経緯で、結人さんに目をつけることになったのかを」