『和歌子ちゃん?』
どうして、彼女の名前が?結人は疑問に答えるように続ける。
「座敷わらしのおまじないは、知っている?」
『うん、孝慈くんが言ってたやつだよね。もしかして、あれが鈴夏と関係あるの?』
「鈴夏は何かを願った。在校生から歌高志望の中学生に伝えられる、真偽不明の座敷わらしのおまじない。歌扇野の先輩から教えてもらって、鈴夏はおまじないの方法を知っていたんだ。
幸運のチカラが僕に発現したという和歌子ちゃんの話さえ、僕が鈴夏の関係者だという時点で、必然だったのかもしれない」
『じゃあ、鈴夏はいつの間にかおまじないをかけてたってこと?』
「鈴夏は僕たち三人に、座敷わらしのおまじないをかけた。それぞれ、彼女が特別と思う三人で、コージもその一人だった」
『でも、どうやって? 座敷わらしのおまじないは、たしか、本当のやり方が誰にもわからなくて、色んな話が伝わってる。
だから、鈴夏がいつの間にわたしたちにおまじないをかけてたのか、方法がわからなくちゃ』
「おまじないのやり方なら、もう見当はついてる」
『え!? 本当に?』
「僕が病気のことを打ち明けられた時、松野がコージと鈴夏を目撃した瞬間に起きていたのと、まったく同じことをされた。
僕が病気のことを知ってしまったのは、体育館倉庫で震えてた彼女を見つけたからだ。
――僕がおまじないをかけられたのは、その時だった。彼女の突発的な行動の中に、おまじないの条件の答えがあった」
瑞夏はそこで気づいて、結人を見上げた。
『もしかして』――。
「わかったみたいだね。和歌子ちゃんの行動と、鈴夏の行動には共通点がある――。和歌子ちゃんと初めて会ったとき、僕たちは彼女に抱きつかれた。
座敷わらしの彼女が他人に見えるようになる条件、それはその人に、『抱きつくこと』だ。
だから、座敷わらしのおまじないでも、おまじないをかけたい相手に抱きつくことが重要なんだ」
相づちを打つ。結人の推理はとっぴかもしれないけど、真剣に聞きたい。もっと聞きたい。いつの間にか不思議とそんな気持ちになっていた。
「松野も、鈴夏に抱きつかれたことがあったんだね。もしかしたら、何気なくかもしれないし、覚えてないかもだけど」
『ううん、心当たりがあるよ。大会の数日前、ほんとうに突然だった。手紙を渡された後だったから、よく覚えてるよ。抱きつかれてビックリした。大丈夫、大丈夫って、自分に言い聞かせるように呟いてたんだ』
「ただ、抱きつくだけじゃおまじないとしては味気ない。
もう一つの手順――他の共通点がほしいよね。
僕が覚えてるのは――、抱きつかれた時、鈴夏の腕に絆創膏が2つ、貼ってあったこと」
『あっ! 私もそうだったよ。血が滲んでたの覚えてる。何日か後に孝慈くんといるところを見たときも貼ってて、深い傷かなって気になったんだ』
「インクか血糊、あるいは本当に自分の血を使って何らかのメッセージを下に記したのかな。いや、血は流石に書きにくいか。
この手のおまじないでありがちなのは、魔法をかけたい相手の名前を、消しゴムや自分の体の見られそうな場所に書いて隠す系」
『あっ、じゃあ2枚貼ってたのは、インクか何かでそれぞれ私達の名字と名前を分けて書いてたのかも』
結人の推理は、きれいにピースにはまるような気がした。
でも、ひとつだけ気になったことがあって、聞いてみる。
『加澤くんは、コージくんのことも自分で予想したの?』
「ううん。病院で、コージは自分から、鈴夏の幼なじみだったことを打ち明けてくれた」
『コージくんがそう言ったの?』
「ああ。鈴夏にとっての特別な存在が、僕たち三人だったんだ」
「…………」
瑞夏は、でも、と首をかしげる。
「松野?」
『ううん。そんなこと、知らなかったから。鈴夏には加澤くんのこと教えてもらったけど、孝慈くんの話はなかったから』
「確かに、松野と僕は『大切な存在』として認めてもらって、それぞれのことを鈴夏に教えてもらった。それが松野だっていうことは、僕の方は結局聞かずじまいだったけど――。
孝慈の存在に限っては、僕も松野も聞かされていない。たしかにおかしいよね」
すでに自分の推理の綻びに気づいていたのか、結人はあまり驚かなかったようだ。
どうして、彼女の名前が?結人は疑問に答えるように続ける。
「座敷わらしのおまじないは、知っている?」
『うん、孝慈くんが言ってたやつだよね。もしかして、あれが鈴夏と関係あるの?』
「鈴夏は何かを願った。在校生から歌高志望の中学生に伝えられる、真偽不明の座敷わらしのおまじない。歌扇野の先輩から教えてもらって、鈴夏はおまじないの方法を知っていたんだ。
幸運のチカラが僕に発現したという和歌子ちゃんの話さえ、僕が鈴夏の関係者だという時点で、必然だったのかもしれない」
『じゃあ、鈴夏はいつの間にかおまじないをかけてたってこと?』
「鈴夏は僕たち三人に、座敷わらしのおまじないをかけた。それぞれ、彼女が特別と思う三人で、コージもその一人だった」
『でも、どうやって? 座敷わらしのおまじないは、たしか、本当のやり方が誰にもわからなくて、色んな話が伝わってる。
だから、鈴夏がいつの間にわたしたちにおまじないをかけてたのか、方法がわからなくちゃ』
「おまじないのやり方なら、もう見当はついてる」
『え!? 本当に?』
「僕が病気のことを打ち明けられた時、松野がコージと鈴夏を目撃した瞬間に起きていたのと、まったく同じことをされた。
僕が病気のことを知ってしまったのは、体育館倉庫で震えてた彼女を見つけたからだ。
――僕がおまじないをかけられたのは、その時だった。彼女の突発的な行動の中に、おまじないの条件の答えがあった」
瑞夏はそこで気づいて、結人を見上げた。
『もしかして』――。
「わかったみたいだね。和歌子ちゃんの行動と、鈴夏の行動には共通点がある――。和歌子ちゃんと初めて会ったとき、僕たちは彼女に抱きつかれた。
座敷わらしの彼女が他人に見えるようになる条件、それはその人に、『抱きつくこと』だ。
だから、座敷わらしのおまじないでも、おまじないをかけたい相手に抱きつくことが重要なんだ」
相づちを打つ。結人の推理はとっぴかもしれないけど、真剣に聞きたい。もっと聞きたい。いつの間にか不思議とそんな気持ちになっていた。
「松野も、鈴夏に抱きつかれたことがあったんだね。もしかしたら、何気なくかもしれないし、覚えてないかもだけど」
『ううん、心当たりがあるよ。大会の数日前、ほんとうに突然だった。手紙を渡された後だったから、よく覚えてるよ。抱きつかれてビックリした。大丈夫、大丈夫って、自分に言い聞かせるように呟いてたんだ』
「ただ、抱きつくだけじゃおまじないとしては味気ない。
もう一つの手順――他の共通点がほしいよね。
僕が覚えてるのは――、抱きつかれた時、鈴夏の腕に絆創膏が2つ、貼ってあったこと」
『あっ! 私もそうだったよ。血が滲んでたの覚えてる。何日か後に孝慈くんといるところを見たときも貼ってて、深い傷かなって気になったんだ』
「インクか血糊、あるいは本当に自分の血を使って何らかのメッセージを下に記したのかな。いや、血は流石に書きにくいか。
この手のおまじないでありがちなのは、魔法をかけたい相手の名前を、消しゴムや自分の体の見られそうな場所に書いて隠す系」
『あっ、じゃあ2枚貼ってたのは、インクか何かでそれぞれ私達の名字と名前を分けて書いてたのかも』
結人の推理は、きれいにピースにはまるような気がした。
でも、ひとつだけ気になったことがあって、聞いてみる。
『加澤くんは、コージくんのことも自分で予想したの?』
「ううん。病院で、コージは自分から、鈴夏の幼なじみだったことを打ち明けてくれた」
『コージくんがそう言ったの?』
「ああ。鈴夏にとっての特別な存在が、僕たち三人だったんだ」
「…………」
瑞夏は、でも、と首をかしげる。
「松野?」
『ううん。そんなこと、知らなかったから。鈴夏には加澤くんのこと教えてもらったけど、孝慈くんの話はなかったから』
「確かに、松野と僕は『大切な存在』として認めてもらって、それぞれのことを鈴夏に教えてもらった。それが松野だっていうことは、僕の方は結局聞かずじまいだったけど――。
孝慈の存在に限っては、僕も松野も聞かされていない。たしかにおかしいよね」
すでに自分の推理の綻びに気づいていたのか、結人はあまり驚かなかったようだ。


