『本屋であの時、話したいことがあった。鈴夏に託された、あの手紙入りの八面ダイスのことだった。
とても大事なことだから、夏には言おうって思ってた。なのに、わたしは誰ともうまく話せない。
自分の心に正直に言うことができないの。周りばっかり気にして。
裏切り者だって認めるのが怖くて、そんな臆病な気持ちのせいで、結局マトイ書店でも、クレープ屋さんのときも、渡せなかった』
メールに一気に記す。
堰が切れたように、感情が止まらなかった。
進路だって、この臆病な性格のせいで不安だらけだ。
大学に入って児童心理学を学ぶとしても、その後のイメージが何も湧いてこない。
他人と話すのが極端に苦手だから、大学に入れたとしても、その後の未来が見えない。
もしかしたら友達ができなくて、ひとりぼっちが苦になって、授業を受けられなくなって、そのまま退学するかもしれない。
教職を目指すなら、実習だってある。
そのなにもかもが、自分にできる気がまったくしないのだ。
だから、数年後の未来は真っ暗なのだ。
だったら、今のうちにしんだほうがましかもしれない、そう思ったことだって何度もある。
そう結人に明かす。
画面に打ち込まれたそれらの文章を読んだ結人は、
「……松野」
背中を合わせるのをやめ、瑞夏の方を向いた。
背中に結人の視線が当たる。
「もうそこまで答えは出てる。松野はもう、自分の本当の気持ちを持ってる。
けど、それにうまく気づけてないだけ。まだ十分な解釈を与えられていないだけ。そうは思わない?」
『どういうこと?』
「――絵本のシールのこと、前に話してくれたよね」
「!」
絵本のシール。その言葉を聞いて、思わず振り向く。その拍子に、結人と手が当たる。
結人が家に入ってからはじめて、お互いに向かい合った。
「あれから、僕なりに必死に考えてたんだ」
結人は過去に話したシールの話に、答えを返した。
「シールに書かれた言葉なんて、たいした問題じゃない。
重要なのは、シールの意味を解釈する、自分自身のほうなんだ。
――これが、僕のたどり着いた答えだ」
結人は深呼吸をして、言う。
「まずは、僕がいっこの解釈を話す」
「…………」
「きみと孝慈と僕には、それぞれ星野鈴夏っていう共通点があった。孝慈に聞いたんだけど、彼は鈴夏の知り合いで、昔から仲がよかったらしい」
『孝慈くんが?』
「うん。そして、ふたりは仲良くしてた。孝慈のほうから告白して断られたけど、幼なじみのよしみで、それからも仲は続いてたと考えられる。
幼なじみとしての、恋愛以外の特別さが彼らにはあった。それで、松野はたまたま彼が孝慈に抱きつく瞬間を見た」
『わたし、まだ加澤くんの言いたいことが分からないんだ。
幼なじみ、そうだったとしても、異性の相手に抱きつくことって、何かしら特別だと思う。
こんな時にふざけたこと言うみたいだけど、加澤くんは、鈴夏には悪気はないけど、他人に抱きつくのが癖だった、とかって考えてるの?』
「うん、そういう理由は僕も考えはしたけど、鈴夏はあまり他人に抱きついたりはしなかった。だから、もっと明確な答えがだせそうなんだ。
過去の断片だけじゃなく、今現在にもヒントはあった。とある人物が、僕たちと鈴夏とを再び結んだ」
そして、結人はその意外な人物の名前を挙げる。
「――和歌子ちゃんだ」
とても大事なことだから、夏には言おうって思ってた。なのに、わたしは誰ともうまく話せない。
自分の心に正直に言うことができないの。周りばっかり気にして。
裏切り者だって認めるのが怖くて、そんな臆病な気持ちのせいで、結局マトイ書店でも、クレープ屋さんのときも、渡せなかった』
メールに一気に記す。
堰が切れたように、感情が止まらなかった。
進路だって、この臆病な性格のせいで不安だらけだ。
大学に入って児童心理学を学ぶとしても、その後のイメージが何も湧いてこない。
他人と話すのが極端に苦手だから、大学に入れたとしても、その後の未来が見えない。
もしかしたら友達ができなくて、ひとりぼっちが苦になって、授業を受けられなくなって、そのまま退学するかもしれない。
教職を目指すなら、実習だってある。
そのなにもかもが、自分にできる気がまったくしないのだ。
だから、数年後の未来は真っ暗なのだ。
だったら、今のうちにしんだほうがましかもしれない、そう思ったことだって何度もある。
そう結人に明かす。
画面に打ち込まれたそれらの文章を読んだ結人は、
「……松野」
背中を合わせるのをやめ、瑞夏の方を向いた。
背中に結人の視線が当たる。
「もうそこまで答えは出てる。松野はもう、自分の本当の気持ちを持ってる。
けど、それにうまく気づけてないだけ。まだ十分な解釈を与えられていないだけ。そうは思わない?」
『どういうこと?』
「――絵本のシールのこと、前に話してくれたよね」
「!」
絵本のシール。その言葉を聞いて、思わず振り向く。その拍子に、結人と手が当たる。
結人が家に入ってからはじめて、お互いに向かい合った。
「あれから、僕なりに必死に考えてたんだ」
結人は過去に話したシールの話に、答えを返した。
「シールに書かれた言葉なんて、たいした問題じゃない。
重要なのは、シールの意味を解釈する、自分自身のほうなんだ。
――これが、僕のたどり着いた答えだ」
結人は深呼吸をして、言う。
「まずは、僕がいっこの解釈を話す」
「…………」
「きみと孝慈と僕には、それぞれ星野鈴夏っていう共通点があった。孝慈に聞いたんだけど、彼は鈴夏の知り合いで、昔から仲がよかったらしい」
『孝慈くんが?』
「うん。そして、ふたりは仲良くしてた。孝慈のほうから告白して断られたけど、幼なじみのよしみで、それからも仲は続いてたと考えられる。
幼なじみとしての、恋愛以外の特別さが彼らにはあった。それで、松野はたまたま彼が孝慈に抱きつく瞬間を見た」
『わたし、まだ加澤くんの言いたいことが分からないんだ。
幼なじみ、そうだったとしても、異性の相手に抱きつくことって、何かしら特別だと思う。
こんな時にふざけたこと言うみたいだけど、加澤くんは、鈴夏には悪気はないけど、他人に抱きつくのが癖だった、とかって考えてるの?』
「うん、そういう理由は僕も考えはしたけど、鈴夏はあまり他人に抱きついたりはしなかった。だから、もっと明確な答えがだせそうなんだ。
過去の断片だけじゃなく、今現在にもヒントはあった。とある人物が、僕たちと鈴夏とを再び結んだ」
そして、結人はその意外な人物の名前を挙げる。
「――和歌子ちゃんだ」


