クローバーが君の夏を結ぶから

 瑞夏は高校で、自分を偽ってまで他人と会話をしないことにしていた。
 いつまでも成長できない未熟な自分が嫌いでたまらなくて、だから、そんな自分を抜け出すために高校ではなるべくひとりになりたかった。
 たとえひとりぼっちになっても、鈴夏の時と同じような後悔は嫌だったから。
 でも、それで自分が変われたかと言えば、何も変わらなかった。
――変わるわけない。わたしのシールはもう、『裏切り者』になっちゃったから。
 自分に貼られているのは、誰かの『大切な友達』というシールではない。
 そのシールには、血文字で『裏切り者』と書かれているのだ。
 だけど、そんな裏切り者のままでも、どうしても話がしたいという想いに駆られた人物がひとりだけいた。
 それは同じ高校、同じクラスになった結人だった。
 陸上の大会での、その姿をずっと覚えていた。
 結人に、鈴夏のことを話したかった。鈴夏のことを聞きたかった。
 鈴夏がいつもうれしそうに話してくれた、恋人。
 いつか鈴夏のことを話してみたい。最初はそれだけだったのに。
 マトイ書店でも、彼の姿をよく見かけた。
 見かけるうちに、無意識にようすが気になっていった。
 結人はなぜか、漫画コーナーを不自然なほど見ようとしない。
 小説の新刊や真面目なコーナーから買っていく。ただし、レジに瑞夏がいる時に限って、なんだか避けるように買わずにチェックだけして帰っていくようだ。
 ある日、児童心理学のコーナーに結人がいて、子供との接し方の本を買った。
 それは偶然にも、瑞夏が大学で進みたいと思っている分野だった。
 それまでは書店での様子を見るたび、こういう小説が好きなんだなとか、この本のタイトルみたいな悩みがあるんだな、とか予想できたが、その本だけ買った理由が分からなくて、気になっていた。