和歌子は僕たち以外には見えないため、傍目からは、僕と松野の二人だけが向かい合っているように見えるのだろう。女性の店員が二人ぶんのオーダーを取り、すぐにクリームソーダとチョコアイスが運ばれてきた。
「さっそく本題に入るけど、なんか信じられないな。夢でも見てたみたいで」
 僕はクリームソーダを一口含んでから、和歌子に確認する。
「聞きたいことはたくさんあるけど、まず要点をまとめるよ。君は座敷わらしという妖怪で、それから、自分から抱きつかない限りは、僕と松野以外の他の人には見えない」
 僕はチョコアイスをスプーンで少しずつ口に運ぶ松野をちらりと見てから、ポケットから和歌子に渡されたあの写真を取り出す。
「そして、君はその特別な能力で、誰かの未来に起きる、不幸な出来事を写した写真を撮ることができる」
 写真を見ると、松野がトラックにひかれかけているあの場面はいつの間にか消えていて、代わりに僕が松野の肩を引き寄せている瞬間が写っていた。
 場面は既にトラックが通過した後で、和歌子の体は幽霊のようなものなのか、静止画のどこにも写っていない。そのせいで、僕が松野を一方的に抱き寄せたような、誤解を生みそうなものになっている。
「座敷わらしの存在だけでも十分驚きなのに、いちばん凄いのは、君が写真で未来を予知できるということ。
 それで、君は何らかの目的があって、その頭についた髪飾りの葉っぱを集めてて、葉っぱは予知した悪い出来事を解決すれば増えていく。
 ただ、そのためにわざわざ僕の前に現れた理由が分からないけど。――把握できたのはこんなところかな。補足や反証はある?」
「もちろんあります! まずは座敷わらしのことの補足から」
 和歌子はカーディガンをめくって自分の制服を指差す。
「わたしは見ての通り、普通の座敷わらしとは違います」
「違い、っていうのは?」
 和歌子はゆっくりと答えた。
「――歌扇野高校の旧校舎。わたしはあの場所に棲んでいます」