クローバーが君の夏を結ぶから

 それから、鈴夏とお互いのことを話した。
 鈴夏は陸上部で、今日は選手としてではなく、好きな男の子の応援のために、この会場に来ていたらしい。恥ずかしいのでこっそり来ている、とのこと。
 やがて、一人の男子生徒の姿が目にとまった。念ノ丘中学のゼッケンだ。
 なんとなく、この人かなと思い、鈴夏に言う。
「……加澤、くん?」
 ゼッケンの名前を読み上げると、鈴夏は答えた。
「――その通り、結人くんです」
 おどけた口調だったが、やや恥ずかしそうにしていたのを覚えている。
 それからは、シラコーの話題を通じて仲良くなった。
 勉強もスポーツもできて、絵も描ける、ユズハのように明るい――そんな鈴夏の万能な格好よさは、いつしか瑞夏の憧れとなっていた。冗談でもなんでもなく、彼女のファンになった。
 学校は違えど、何度も話したし、何度も遊んだ。
 自分とは別の場所にいるような、才色兼備の彼女。
 内気なじぶんでも、自分が鈴夏という大きな傘の下にいることで安心して好きな話題を話すことができた。
 そんなある日、瑞夏はある手紙を託された。
 それは、鈴夏の恋人の男の子――陸上の大会で見た結人に向けたものだった。
 封に入れられた手紙と一緒に、八面体の箱のような小物入れを渡された。
 小物入れには、一面一面に、鈴夏自身の絵柄でイラストが描かれていた。
 その八面ダイスは、美術の授業でつくったものだという。
 その一面には、シラコーに出てくるミステリアスな同級生の男の子のキャラに似せた絵が描かれていた。
 手紙を八面サイコロの小物入れのなかに入れながら、鈴夏は言った。
「これ、似顔絵なんだ。今度の大会の時に、手紙と一緒に結人くんに渡してほしい。我ながら似合わない行動だとは思うけど」
「……えっ、どうして?」
 結人のことは、応援席での鈴夏との出会いのあと、何度も彼女から聞いていた。
 以前から好きで、ようやく付き合うことができた、大切な人だと。
――でも、どうしてそんな手紙を自分に?
 聞くと、鈴夏は落ち着きなさそうに腕のあたりをさすりながら答えた。練習中に転んで作った擦り傷だろうか、二の腕に2つの絆創膏が貼られている。
「まあ、軽くサプライズのつもりでさ。私はこの前、結人くんに重大な秘密をカミングアウトした。
 だから、今のうちに伝えておきたいことがあるんだ。
――だから、お願い。協力してほしい」
 小さな傷でも気になるのだろうか、血のにじんだ絆創膏のあたりを落ち着きなさそうに触っている。
「重大な、秘密?」
 どういうことだろう。
 それ以前に――、
「わたし、知らない人に手紙なんて渡せないよ……なんて言ったら良いのか、ぜんぜん分からない」
「だいじょーぶっ。瑞夏のことは、結人くんにもちょっとだけ話してるから」
「……でも」