クローバーが君の夏を結ぶから

 孝慈に教えられた道を必死に走る。
 松野の家を目指して走りながら、思う。
 シールの疑問にとっさに答えられなかった、未熟でつたない自分のこと。
 鈴夏という女の子がいたこと。彼女は陽のひかりの影で、やりきれなさを抱えていたこと。
 そして、勇気づけてくれた孝慈に、心の中でサンキュー、とつぶやく。それから、全てのきっかけをつくってくれた和歌子にも。
 未熟でちっぽけで、自分自身の答えすら今まで見つけられなかった僕。
 そんな自分が駆け回ったところで、カッコ悪いだけなのは承知だ。
 それでも、僕は――。
 気づけば、松野の家の前に立っていた。インターフォンを鳴らす。
 電話は今さっき既にかけて、松野が無言で応答した。
 用件は伝えたはずだが、玄関には誰も出ない。
 松野の両親は土日でも忙しいことが多いらしく、祭りの今日も日中はいないのかもしれない。
『ひと目でわかる結構大きなお屋敷なんだ』
 孝慈から聞いた家のことは、初耳だった。
 孝慈の話では、松野と両親は、松野が高校に入るタイミングに合わせて、歌扇野市内のその家に引っ越してきたとのことだった。
 僕は玄関のインターフォンごしに言った。
「――星野鈴夏のこと、話したいんだ」
 扉の向こう側に松野が立っている気がした。