クローバーが君の夏を結ぶから

 スタッフ達の輪を後にした時、
「――あ、コージじゃん!」
 聞き覚えのある女子生徒の声がした。相坂さんだ。
 振り向くと、相坂さんの他にも同じ歌高の制服を着た人が三人いる。
「松野さんと加澤くんもいるんだ。祭りまでこの三人なんて、すっかりお馴染みだね」
 僕たちと同じく男女二人ずつで、相坂さんもその中の一人だった。
 それから、そのグループと話になった。
 特に、孝慈と二人の男子生徒達は仲が良いのか、雑談が始まる。
「――でさ、夏風邪ひきやがってさ。ゲームで徹夜して、エアコンガンガンにしたまま寝たんだと」
「ははっ、マジかよ」
 孝慈が軽く反応を返し、しばらく会話が続いた。
 その最中、失声症で話すことのできない松野が相変わらず黙っているのを見て、男子生徒の一人が露骨に不機嫌そうにした。反応のない松野を見るたび、不快そうに眉値を動かす彼。
――病気の事情を知らないからって、その態度はないだろう。
 僕はそう言う代わりに、松野の事情のことをさりげなく説明した。
 だが、彼の態度は変わらず、それどころか、こんなことをつぶやいた。
「……どっちにしろ他人と話せねぇんだろ、ソイツ」
 そして男子生徒は相坂さんにも言う。彼が松野を横目で見ながら、声をひそめて、信じられないことを口走ったのを、僕は聞き逃さなかった。
「――A組の座敷わらし」
 その松野に対して向けられたとしか思えない言葉を聞いた瞬間、血の気が引き、そして頭に血がのぼった。
 それは僕だけではなかった。
「――なんてことを!」
 和歌子が強い語気で言った。
 相坂さんも、男子生徒を隣からキッと睨み付けた。
 そして孝慈が仏頂面で腕を組んでいる。
 男子生徒は僕たちのただならぬ剣幕にうろたえた。
「な、なんだよ、オレは軽いジョークのつもりで」
――言っていいことと、悪いことがあるだろ!
 カッとして、僕がそう言いかけた時。
「…………!」
 松野は鞄で顔を隠すと、背を向けて公園の外に駆け出していってしまった。
 去り際、彼女の横顔が、鞄とショートヘアーのすきまから、ちらりと見えた。目の端には涙が浮かんでいて。ほんとうに悲しそうな横顔だった。
「松野さん!」
 相坂さんが声をかけるも、松野は立ち止まらず、その姿は塀の外に消えた。
「ちょっと! アンタのせいよ!」
「……あ? で、でもよ……」
「いいから、行こうぜ――」
「ほ、ほら、あっちにおみこし来てるから、見に行こうよ」
 男子生徒は相坂さんに叱責され、もう一人の男子と相坂さんの友達とに諌められる。そして二人とともに気まずそうに去っていた。
 後には、相坂さんだけが残った。
「ごめんね、うちのクラスのヤツが」と相坂さんが申し訳なさそうにする。
「松野さん、大丈夫かな」