クローバーが君の夏を結ぶから

 ホオズキさんは首を振って続けた。
 五十嵐さんの釣り人の絵を見ながら、彼は言う。
「考えてもみて。五十嵐の描いた魚、今にも絵から飛び出してきそうなくらい、きらきらしてて鋭い。生き生きしてる。
 花園がナイフと間違うのも変じゃない。
 それにこのおじさんも、絵の中から今にも出てきそう。それはちょっと怖いけど、とにかくすごい。これ、意外と苦労人の五十嵐にしか描けない」
 ホオズキさんが五十嵐さんの手を握る。
「ホオズキ、五十嵐のこと、気に入った。絵飾り、来年も続けよう」
「……でも、オレはもう正体がばれてしまった」
「ばれたって、いいじゃん。五十嵐のやり方、とても面白いから、これから、もっともっと面白いことできると思う。ホオズキも、五十嵐に協力したい。でも、なにより――」
 ホオズキさんは微笑んでこう言った。
「いい絵をありがとう、五十嵐」
「……ホオズキ……」
 五十嵐さんは手を握り、むせび泣いた。
 花園さんがほぅっと感嘆したように言う。
「五十嵐の才能は本物なんだな! こんな何考えてるか分からない天才に認められるなんて」 
「……まぁ、こいつのカタコトと無表情は、あくまでもキャラ作ってるだけだが」
と五十嵐さんがくしゃくしゃの顔を上げて笑った。
「五十嵐、それ、今言わなくていい」
 ホオズキさんは眉を動かしてむっとした顔になった。
 スタッフ達の笑い声が一面に響き渡った。
 オレンジ色のひかりが辺りに満ちて、和歌子の髪飾りの四枚目の葉っぱが色づいた。
 和解して祭りを一緒に回る、花園さんとホオズキさん、そして五十嵐さん。彼らスタッフ達の写真に変化していた。
 幸運のクローバーが、ついに完成したのだ。
「ついに……やりましたね!」
「ああ!」
 だけど、まだ、やることが残ってる。
 僕の手帳にはまだ、未解決の未来写真が挟まれている。
 僕と松野とが、ケンカしてしまうというもの。
 僕が、解決しなきゃいけないもの。