クローバーが君の夏を結ぶから

「手紙の中には、『帰郷した時に絵飾りのことを知った。慣れない仕事で大変だった時に、そのニュースを見た。本当に綺麗な絵で、なぜか励まされた』、っていう感謝が描かれている」
「なんだって」
「手紙は『今年は直接見に来たい』という気持ちで結ばれてる。五十嵐の絵が、人知れず誰かを勇気づけてるってことさ」
「……あっ」
 その時、スタッフのひとりが短い声をあげた。そのスタッフの方を向くと、遠くに誰かが立っている。
 歌扇野公園の入り口、城門の前に、その人物はいた。
 髪を短く切った、若い男性だ。
 彼は僕たちとスタッフ達のほうに深々と頭を下げると、祭り会場の外に消えていった。
「今頭を下げてったやつ、この手紙の差し出し主だよ」声を上げたスタッフが言った。
「えっ」
「俺、家庭裁判所で働いてて、むかし落書きの事件で捕まった少年の担当だったんだ。手続きが終わった後も交流は続いて、手紙をマメにくれるんだ。この手紙も、昨日彼から届いたものなんだ……」
 スタッフは胸ポケットから封筒を取り出して言った。
 それを聞いたホオズキさんが、五十嵐さんの肩をポンと叩く。
「……話題性にばかり隠れてるけど、五十嵐の絵は確実に、誰かに何かを残してる。だから、もっと自分の絵に自信持って」
 それからホオズキさんは、花園さんに言う。
「いっつもサボってるから、バチがあたったんだ」
「……う、すまん」
「サボり魔の花園には、いい薬。ホオズキ、ちょっと嬉しい」
「お互いにごめんなさい、できそう?」
「ああ。……申し訳なかった、花園」五十嵐さんが深々と頭を下げる。
「こちらこそ、不真面目なことをして、悪かった。祭りの撤収のときは、サボる暇もないようにじゃんじゃん仕事をまわしてほしい」花園さんも頭を下げた。
「花園、その言葉、撤回はさせないから」とホオズキさんが口元をわずかに弛めて言った。
 それから、ホオズキさんは五十嵐さんに握手を求めた。
「……今度、絵の話をしよう。一緒に美術館を回って、お茶でも飲みながら語りたい」
 五十嵐さんは、どうしていいかわからないようで手を差し出すのをためらっていた。
「ホオズキ――、どうして? 俺の絵は、天才のお前には勝てないのに」
「ホオズキも、五十嵐には勝てないよ」